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きつねのはなし (新潮文庫)

価格: ¥546
カテゴリ: 文庫
ブランド: 新潮社
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古都に潜む怪異をえがいたホラー作品。 ★★★★☆
阿呆な大学生の生態を書き続けている作者が視点を変えて、京都に潜む怪異を描いた短編集。怪異自体はおぼろげで、それ故に怖さがある。実体のある物か人の心に潜む闇か最後まで言及しない。各作品が微妙にリンクしており、面白い。新たな作風で、その実力を証明した良作。
あやしい異相世界への誘い ★★★★★
森見氏の小説の常として京都ものである。しかし、氏の他の小説と違ってちょっと怖ろしい怪談ものになっている。現代にあってもそこかしこに古さの残る街には、ちょっとしたきっかけで怪しい世界に足を踏み入れてしまいそうな危うさがある。何と言ったらよいのだろう、目には映らず普段は気づかないがもののけの住む異相世界があり、何かの弾みに人が迷い込んでしまう怖さのようなもの、森見氏はこの短編集でそんな世界に読者を誘ってくれる。

この短編集においては、森見氏の他の小説(たとえば『夜は短し歩けよ乙女』)のように外連みたっぷりの文章は陰をひそめ、非常に洗練された文章である。私は森見氏の外連みを帯びた文章の大ファンであるが、こうした美しい文章にふれるとなお一層森見氏のファンになる。氏が作品のテイストによって描き分ける力量を持っていることがはっきりと判る。

中川学氏のカバー装画も黄色が印象的ですばらしい。

〈籠の中の果実〉=「果実の中の龍」+〈竹〉冠? ★★★★★
 本書収録二篇目、「果実の中の龍」。これはあくまで私の勝手な想像だが、森見氏は、〈籠の中の果実〉というフレーズから、本作の構想を起こしたのではないか。なんの変哲もないフレーズ。しかし、日常の世界に、ほんの少しのひずみが生じると、非日常の世界が口を開く。
 〈籠〉の〈竹〉冠を取れば、〈龍〉。ひっくり返して、「果実の中の龍」。あるいは、〈龍〉を閉じ込めていた〈竹〉の代わりに、〈果実〉で閉じ込めて、「果実の中の龍」。なんて、やはりただの想像。
 二篇目の〈龍〉は、四篇目「水神」において大暴れを演じる。〈籠〉る、という行為は、危険らしい。昔、中国には、「竹林の七賢」なんてのがいたようであるが、〈竹〉の内に〈籠〉るのは、自分の内に〈龍〉を飼いならすことかもしれない。なんだかこの話は、不思議な珠を呑みこんだ少年が、挙句の果てに、〈龍〉になった中国の民話を下敷きにしているような気がする。
 れいによって、とんちんかんなことを書いた。詳しくは、本書を読んでのお楽しみ。
空虚の先 ★★★☆☆
「きつねのはなし」「果実の中の種」「魔」「水神」といった謎を秘めた古都を舞台に描いた漆黒の作品集です。氏の作品において、明らかに異質なものとなっています。
闇に蠢くものと対峙する時、何が待ち受けているのでしょうか…。



「でもねえ、今でも思うんだけど、嘘だからなんだというんだろうな。僕はつまらない、空っぽの男だ。語られた話以外、いったい、僕そのものに何の価値があるんだろう」
森見流「陰翳礼賛」 ★★★★★
魔に魅入られた人の話である。4編収録。最初の3編は登場人物に重なりを認めるが、役柄や時間関係は一貫しておらず、別の物語と考えた方がよい。また最後の「水神」は設定が異なる。

まこと、京都には異界がよく似合うのである。この世には「踏み込んでは行けない領域」があり、不用意に関わりを持つことは運命の破滅につながる。文明化とは闇の排除に他ならないが、今も闇は市井に厳然としてあるのだ、という物語である。私は科学者でありオカルティズムは信じないが、そういう領域がこの世にある方が、人間は謙虚に生きられるのではないか、という気がしないでもない。

本作の最大の特徴はその文体にある。化連味あふれる賑やかなスラップスティックを本領としてきた作者が、ここでは端正な日本語を駆使して怪異を物語る。正統的な文体で見事に編んだ作品であり、作者の力量が本物であることを示していると思う。