今日、アイデンティティを確立するのはむつかしい
★★★★★
著者の高岡氏は、知る人ぞ知る精神科の名医。「人格障害論の虚像」や「新しいうつ病論」を読むとよくわかる。また、斎藤環氏との、〈ひきこもり〉をめぐる論争でも知られている。
本書は「16歳からの・・・」とあるが、むしろ大人が読むといろいろ考えさせられる。コンパクトにまとめてあるが、中身は非常に濃い。
自分はいま自分自身になるまでどこあたりにいるのか、どんな「ゆがみ」をかかえているのか、よく見えるようになる気がする。
〈こころ〉の成長を〈あなた〉と〈わたし〉と〈世界〉をキーコンセプトにして考えていくユニークで魅力的な試み。基点は、母親や恋人などの〈あなた〉。〈あなた〉との出会いや別れの失敗が〈わたし〉や〈世界〉の確立をむつかしくしている。これは今日の人々の一般的な姿ではないだろうか。典型的には、あの酒井法子は〈あなた〉のゆがみではないのか。また、〈あなた〉のゆがみからくる〈わたし〉のゆがみ(ウツ的になって自分にしか関心がない)も、われわれの周囲にはいくらでも見かけるようだ。
社会的広がりのなかで〈こころ〉を考える高岡氏の力量と面白さがよく表われている本だと思う。