久しぶりに良い物語を読みました。普段はあまり再読しないのですが、もう一度読み直そうと思っています。
内容的にはパラノーマルに近いのですが、幻想的、詩的描写のためファンタジーを読んでいる気分でした。
三部作の第一作目に当たります。
霧深い山奥にかつてカルパチア山脈より人間に追われ逃れてきたザハレン一族の末裔がひっそりと暮らしています。
一族は自分たちの正体を隠すため規律・規制を厳しく守っていましたが、中にはそんな暮らしに耐えられず逃げ出す者もいました。彼らは〈逃亡者〉と呼ばれ一族の秘密を守るために狩られていきました。
18世紀中頃、ロンドン各誌で〈煙の盗人〉の話題が報じられています。話題の人物は〈逃亡者〉に違いありません。
一族の若きリーダー、クリストフは秘宝〈ヘルテ〉を餌に〈煙の盗人〉をおびき出しますが現れたのは女性、しかも〈変身〉能力を持っています。変身能力を持った女性は数世代現れていません。彼はひと目で、そして本能的に彼女に惹かれていきます。
主人公はヒロインなのですがクリストフの人を超越した存在感が際立っています。
本書はロマンス小説ですがハラハラ・ドキドキの恋愛遊戯はありません。
登場人物は〈竜人〉であり人間のように暮らしていますが本性は〈獣〉、その恋愛は人間よりも本能的です。19世紀を舞台にしたロマンス小説のような恋愛模様を展開するはずもありません。
幻想的、詩的描写、文学的雰囲気に読後感は何とも言えない気分でした。
すでに次回作が待ち遠しいです。