この世とあの世の分岐点に響くもの
★★★★★
まだ前衛とか実験音楽とかの流行っていた70年代の制作であるが、そんなことより大事なのは、2007年現在において聞いても、この音楽の比類なき素晴らしさをどう人に伝えられるのだろうか、ということなのである。これほどの創意と想像力にあふれる音楽を他にすぐには思いつかない。
パーセルの曲を基に、当時、電子音楽によるアルバムも出していた彼が、音の重層的な広がりを実験的に創出したものと思われるが、そこに聞こえてくるのは、最後の波音に象徴されるように、この世と彼岸の音の美しい戯れであり、人間や地球への無限の想いであり、人類というドラマが生じていくその過程を一瞬に表したような、そんなイメージを喚起する音楽である。
高橋悠治のアルバムの中でも、全く独自の仕上がりのこのアルバムは、すべての音楽のジャンルを超えて存在していると思う。