マクロの教科書は理論と実例データの両方を詳しく論じると開くのも嫌になるくらい分厚くなってしまう.しかし,本を薄くするとどちらかが中途半端になってしまう.その点この本はコンセプトがはっきりしていて好感がもてる.
用語説明や実例が豊富な入門書を読んだあとに理論を詳しく知りたくなった人,短期間で学部マクロの理論面をマスターまたは復習したい人には最適である.また,例題と練習問題が豊富なので院入試や公務員試験にも適している.数学レベルもそういう読者層に適度(または少々高度)だと思う.
ただ,あくまでスタンダードな構成をとっているので,動学的な上級マクロとは少し距離があると思う.院レベル以上のマクロを目指す人は,この本より難易度は高いが,齋藤誠『新しいマクロ経済学』のほうが適しているかもしれない.
このような理由で、初級を終えた学習者が上級に進むときに「挫折」しがちだ。これはマクロ経済理論学習書の橋渡し的な文献が圧倒的に不足していたことにもよる。本書の存在意義は、まさにそのような初級から上級への橋渡し的機能を担うことにある。
本書の全体を通じたトーンは、中級レベルのミクロ既習者になじみの深い分析手法(比較静学)により特徴付けられている。このことは、本書が公務員試験など資格試験受験の準備にも有用な学習ツールたらしめている。
難点を挙げれば、最終章の最適成長モデルの叙述が簡潔すぎる点。上級レベル議論の出発点となるだけに丁寧な解説が望まれる。