本書には折に触れ書き留められた多くのデザイン論が収録されているが、なかでも著者のデザイン観が最も凝集されているのが冒頭の「アノニマス・デザイン」であろう。著者は匿名の職人によって作られたジーパン、野球のボール、ピッケルなどに「その土地土地の生活の用に準じて、忠実に素直に作られている健康で平穏な美しさ」を見出してそれを「濁流渦巻く現代文化への清涼剤」として位置付けている。この部分だけを読んでいても拍子抜けしてしまいそうだが、しかしこの視点は伝統的な「用即美」の境地とほぼ同一のものといってよく、シンプルにして質実剛健なデザインこそ著者の希求するものであったことを他の多くのデザイン論や雑感からも読み取ることは難しくない。
言うまでもなく、このような「アノニマス・デザイン」へのまなざしは民藝運動を展開した美学者である著者の実父・宗悦の大きな影響下に形成されたものであり、本書の後半にも、宗悦が創設した日本民藝館の館長を務める立場となった今、あらためて実感されるその業績の偉大さを回顧する断章が挿入されている。親子2代にわたって受け継がれた民藝運動の理念を「蛙の子は蛙」と言って済ますのは安直に過ぎるというほかない。(暮沢剛巳)
本質をつかんでいくプロセスが「デザイン」なのかも。。ということは柳のプロトタイプ制作に始まるデザインプロセスに見て取れる。
本質をつかむにはその膨大なインプットを必要とするしそのための好奇心も必要。なによりもそれを続けることのできる柳はまさに本質を追究し続ける人なのだと感じる。
日本の民芸館を旅するごとに訪れてみるが、いつもそこで出会うのは国籍に囚われない視点と無駄のない美しさと暖かみを感じながらも厳しい静寂のある風景。そこには生と死の両極端とその間にある緊張感が見て取れる。
本質を追究する人は哲学者でもある。つねに問いを立てるから探求心がつきない。そんな気持ちの状態で活きているから、それは当然文章(エッセイ)になって現れる。
そんな「デザイン」活動の一片に触れることができてとても嬉しく思いました。
デザイナーといわず、物を作るのが好きな人に幅広くお勧めします。