風待ちの風景に入り込む
★★★★★
ちょっと疲れたエリート哲司と優しい手を持った喜美子の物語。
冒頭部分を読み始めたときは、喜美子が突飛な感じで疲れそうで「苦手な部類かも」
と思ったのですが、文体が段々ゆったりして行きお仕着せではなく、泣かせようと
している訳でもなく、ただただ少しゆっくりと何かを色々な意味で
整理していく哲司とそれを手伝う喜美子の様子が、本当に素敵でその素朴さがかなりお洒落でした。
喜美子、哲司、そしてその二人を取り巻く人々が魅力的かつリアリティ溢れていて
生き生きしています。
喜美子の素直さが物語を引っ張っていきますが、人間として女としての
生々しさもさらっと描かれており、それがこの物語を余計リアルにそして
正直にしていると思います。
そして女性である私から見る哲司さんはとっても魅力的な男性。哲司さんの描写から
哲司さんの香りや着ている服の肌触りまで伝わってくる作者の力量は素晴らしいと
思います。
また人物だけでなく、二人の物語が展開する家や町並みが目の前に広がっていきます。
心にほんのりくるけれど、主人公たちは最後力強く生きて行きます。
このラストが私は大好きです。
この小説がいいと思えるということは、少しは自分も精神的に大人になって
いるのかな、と思える作品。
『風待ちの人』という作題、Keyとなるクラッシック、全てが淡々としていて素敵です。
読んで良かった!
★★★★★
職場が図書館に近いので、月10冊くらい本を借りて読むのですが
なかなか「おもしろかった」と思える本には出会えないもので…。
昨年1年間の中でこの本が一番胸に響きました!!
じれったくて切なくてでもあったかくてディティールがリアルで、
読後感がこんなにさわやかで「あー読んで良かったな」って思える
、元気をもらえる貴重な1冊です♪
こわいくらいにリアル
★★★★☆
読み始めてしばらく主人公である喜美子の本心が見えず、どうしてこの人はこんなに尽くせるんだろう?なんでこんなに明るく自分を『おばちゃん』と言うのか?とても疑問でした。
読み進めるに連れて、彼女の背負ってきたものの重さがじわじわと見えて来て、一気に引き込まれました。
作品中に出て来る美鷲の美しい風景が目の前に迫って来て、喜美子の作るおいしそうな料理のにおいや、岬の家の前に広がる青い海の色まで、まるで自分がその作品の中にいるかのように感じられ、最後までドキドキしながら読めました。
性格的に哲司の妻に似ている自分を反省しつつ、いつか喜美子のような懐の深い女性になれると良いなと思いました。
心の風邪が蔓延する今、こんなに優しい小説に心をゆだねる夏も良いのではないでしょうか。
早い夏休みに、これだけ思いを馳せることになるとは…
★★★★★
先に妻が一気に読み切り、うっすら涙を浮かべた顏で手渡された。
ストーリーをざっと紹介されたが、普段あまり読書しないうえに、男の自分としてはいまいち興ののらない「ラブストーリー」と聞いたのでしばらく放ってたが、世間より早い夏休みにふと読み始めたら…数時間で一気に読み切ってしまった。
正直、妻には悪いが……読んでいる最中に、いままで身近にいた女性をたくさん思い出してしまった。あの時もし…という自分の経験や当時の思いが甦り、目の前の主人公二人の心の動きとシンクロしてしまったのか、キリキリと心に刺さる。
自分自身、主人公の哲司と似た一面を感じてしかたかった。三十歳を過ぎてからの自分の人生、妻と始めた新生活、ご多分にもれない仕事の厳しさ、ちょっと心が折れてしまって自覚した心の風邪のこととか。
今でもまだ睡眠薬が手放せないまま、この先10年をどうにかしなきゃとあがいているワタシの心には、哲司の一言、喜美子の仕草一つずつ、取り囲む登場人物の機微や、美鷲の風景が、岬の家を襲った台風のように猛烈に吹き込んできて驚いた。
甘いラブストーリーかと思っていたが、こんなにも自分の過去と未来に思いを巡らせることになるとは思っていなかった。言葉の端々、指先の感触、情景描写のちょっとしたところにまで、読者が自らの思いを馳せるきっかけがちりばめられているんだなと感じる。
主人公二人の距離感と葛藤に自分も苦しみ、予想に沿うようでいて裏切られる展開、エンディングに向けていつの間にか思っていた「こうなってほしい」という願いと、どうなるんだ?という焦がれる思いの中で読み切り……。
妻が帰ってきたら抱きしめようと思ってます。
生きることはこれほど厳しく、そして愛おしい
★★★★★
一気に最後まで読んでしまいました。
若い頃にはどんな本でも最後まで読破出来たものでしたが、
子育てしながら仕事しながら読む本は本当に面白いもの、自分のためになるものでないとなかなか最後まで一つの本を読み切ることはできませんでした。
しかも、この本は子供が寝てから読み始めて一気に最後まで読み切ってしまいました!
冒頭の描写からラストまで、激しい展開はそれほどないのですが、
ぐいぐい話に引き込まれます。引き込まれるというより、物語のなかで自分という登場人物がいるかのように、とてもリアルに感じられるのです。
風のにおいがするかのよう、海辺の潮のにおいが感じられ、美味しい料理のにおいが感じられてお腹がすき、都会のかわいた空気に包まれるように感じられ、自分がトキめき、自分がかなしみ、傷つけ傷つけられ孤独になり、そして慰められるという短い時間にともに人生をいきられるお話でした。(いい本というのはそういうものですよね。)
そして、クラシックが久々に聞きたくなりました。。。
作者や登場人物が同世代ということもあり、本にでてくる一つ一つのこまかい背景、音楽、服、食べ物、はやりものなどすべてにこころくすぐられました!
若い女性向きかなと思いましたが、父や母にも、かなりうえの世代の方にも絶賛でした!
詳しいお話をしてしまってはもったいないのでオビのところだけ、、。
「やさしい手を、さがしていた〜心の風邪で休職中の男と家族を亡くした傷を抱える女。海辺の町で、ふたりは出会った−。心にさわやかな風が吹きぬける、愛と再生の物語。」
ぜひぜひオススメの一冊です。
生きるということはこれほどまでに厳しく苦しく、そして素敵で愛おしい。
死や絶対の愛をのりこえられなくても、優しさでいきていきたい。
そんな思いに溢れさせてくれる、すがすがしい作品でした。