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その夜、妻に最期のキスをした。

価格: ¥1,575
カテゴリ: 単行本
ブランド: マガジンハウス
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活字嫌いの私をも泣かせてくれました。 ★★★★★
元来、活字が嫌いな私ですが、読書の秋ということで11月の中旬より瀬戸内寂聴先生の著書に手を付け、300P以上あった作品を10日ちょっとかけてなんとか読み切ることができました。達成感に浸る中で次の著書をと書店で探している時に出会ったのがこの著書です。

先にレビューを書かれている方もおっしゃっていますが、話はいきなり癌と闘うところからスタートします。
もともとがブログに掲載されていたテキストなので、その口調は口語的で、感情がもろに出ていて、それらはつまり闘病生活を送る中で心に思った本音以外の何物でもないことがよく伝わってきます。時には病院に対する嫌悪感だったり、時には支えてくれるはずの夫への不満だったり、時には仕事へ復帰したいという願いから生まれるジレンマだったり。

なるべく無感動な状態を保ちつつ読もうとしていた私ですが、窮地の者にしか分かり得ないむき出しの感情や、どんな状態であっても希望を捨てず生きようともがく姿に、涙せずにはいられませんでした。

読書量の少ない私がこう評するのも失礼な話かもしれませんが、本当に手にとってよかったです。自分とは違う環境に包まれ、社会的にも不利を余儀なくされている方々に、優しくさせてくれる作品でした。
より多くの方々に紐解いてもらい、私が得たのと同じ感動を味わって頂けたらと心から思います。
山口記者の奥さん ★★★★★
山口記者が奥様を亡くしたというのは、豊島の安芸さんが「「さきほど妻が息を引き取りました」と電話があった・・」という当日の話をしてくれたり、去年のCOP14でCASAのHさんから伝え聞いた話とか、豊島弁護団の大川元副団長(大川弁護士も奥様を亡くされたので)といっしょに亡きました・・・とか、話には聞いておりました。

それが、日曜日の朝日新聞の書籍紹介のタイトルと著者名をみて、びっくりしてしまいました。
ごはんを食べるのも忘れて読みおえて、何度も何度も読み返して、何度読んでも涙が出てきました。

これまでは、山口記者の奥さまってとらえ方をしていましたが、この本を読んで「やっとキャリアをスタートさせた研究者」のくやしさとつらさが痛いほど伝わってきました。

政治学の分野はポジションが少ないので、やっとつかんだキャリアだったのでしょう。
そして、博士課程への進学を決めるのは、もう引き返せない、かつ、将来の保障はない(40歳で非常勤をされている人がうようよいる)世界をあえて選択すること。

真面目に勉強すればするほど迷路に迷い込むような研究者の世界で
「このままでは死ねない」と思った気持は痛いほどわかりました。

すべての人の人生には生きる意味があるし、これほどの能力を持った人に神様がこれほどの試練を与えたのは、奥様には別のミッションが与えられていたということでしょう。

豊島のアマモをみて
富良野のラベンダーをみて
少しは悲しみが和らいだでしょうか。

COP15関係で署名記事をよくみかけます。

このつらい経験が、今後、二乗にも三乗にもなっていくことを祈念しつつ・・・

忘れな草をあなたに ★★★★☆
昨年春、何の予備知識もなく『 戦後日本の女性政策]]』を読んで、自分とほぼ同世代の著者が若干荒削り気味ながらも、とても充実した仕事をしていることに感銘を受けた。著者がその本の出版後、どんな仕事をしているのかが気になっていた。漠然と、勤め先の女子大で仕事をしながら、ひょっとして子供もいるのかなぐらいに思っていた。
しかし、その秋にある週刊誌で読んだ記事で、何だか著者のような経歴を持った妻を亡くした夫の話が載っていた。何かがおかしいと思った。そして私の不安は的中した。
こんな形で著者の新しい本を読みたくなかった。キャリアや子供など、色々なことをあきらめざるを得なかった著者の無念とどんな状況でも努めて冷静でいようとしたことが痛いほど伝わり、読了後も心が乱れている。自分の人生がそう長くないかも知れないと言うことに向き合うことは辛いことである。自分がガン宣告を受けたら、こんなに落ち着いて過ごせるとは到底思えない。
それでもこの本を遺せたということが、著者にとって、ガンに罹ってからの人生も決して無駄ではなかったと言うことの証しなのかも知れない。私はそう受け取った。著者が天国で素晴らしい研究に着手していることを心から祈っている。
自分の最期が見えてしまったとき・・・ ★★★★☆
 本書は、今は亡き、横山文野という大学教員が肺がんにおかされたことを告知された時から、この世を去るまでブログに綴ったものをまとめたものである。後半、本人が書けなくなると、夫である山口智久が彼女の代わりに書き足している。夫婦の話なので、病に倒れるまでの日常生活も書かれているのかと思っていたら、それは最初の写真2,3ページから想像するしかなく、もっぱら闘病記となっている。

 読み始めての印象は須山静夫『墨染めに咲け』と似ているというものだった。妻が大学教員であるところ、胸に水がたまり苦しみ、食事がとれず痩せていくなどの症状、そばで見ているしかない夫の気持ちに似たところがあった。ただ、本書は妻自身が綴っている部分も多いので、もっと本人の感情の起伏が感じられた。しかもこちらは、途中で回復の兆しも見られるところもあり、このまま良くなるのではないか、と半信半疑ながら、微かに希望も見いだせることもあった。その反面、時に諦めに似た気持ちも抱いていることも多い。

 また、本人が、何人かのガン患者の本を読んでいて、中にはよく知るもの(岸本葉子、絵門ゆう子、飯島夏樹)もあったが、全く知らないもの、また、この人の奥さんもガンに?(倉嶋厚『やまない雨はない』)と驚くものもあった。

やりたいことを沢山抱え、それを実行するだけの実力もあるのに、身体をいうことをきいてくれない・・・。彼女ほど優秀だ、というわけではない人も、突然、自分の時間に限りがあることが分かれば生き方を見直せるだろうか。もちろん人には寿命があるわけだから、世の中の人、誰の時間にも限りがあるのだけれど。
純度100%の愛の結晶 ★★★★★
 読み始めると、いきなり厳しい現実が連記されている。その現実に直面しながら,事実と自己を客観的に把握し、記述した文章から,文野さんが明晰で芯の強い女性であることがうかがえる。また重い内容にも関わらず,文章はキビキビとして読みやすい。「それにしても、山口は良く料理をする旦那だ。」などと思いつつ、前半は割合に落ち着いて読める。

 ところが,文野さんがうつ病を併発するあたりから、雰囲気が一変する。いくら客観視しても病気は他人事には成ってくれない。その凶暴さが次第に姿を現す。その後,新薬でいちじ病状が回復し、文野さんは教壇に復帰した。当時の文章には,現状を受け入れて生きる覚悟と,自分は何かを残せるのかという焦りが滲み出ている。そして病状は再び暗転し,その後は「ページをめくる度に、文野さんの終りをたぐり寄せるような」そんな切ない呵責を感じながら読み進めた。

 本書は癌の闘病記であり,基本的には辛く悲しい話である。しかし,元々がブログなので,日々の細事が丁寧に描かれており,真直ぐな性格の二人が、お互いを思いやる気持ちが良く伝わってくる。ひねくれた評者には,二人の関係が眩しいばかりに輝いて見えた。
 また,文野さんの意欲に応え,出来うる限りの手段を講じた大学関係者の思いも感動的だ。正直,『はじめに』を読み返しただけで目が潤んでしまった。情けない。

 そして深い愛情で,文野さんの暮れゆく歳月に、全力で光を灯し続けた山口氏は,文野さんにとって最良のパートナーであったと思う。
 きっと文野さんもそう思ってる。