これぞ、名人芸の味わい。しみじみ美しいピアノの調べに酔いしれました
★★★★★
録音当時88歳だったルービンシュタインの、ころころと転がるような玲瓏たるピアノの音色。しみじみと心にしみこんでくる、味わい深いピアノの調べ。こういう演奏を聴くと、技術的なことをどうこう言ったり、重箱の隅をつつくようなことを言うのが、何かとてもむなしくなりますね。
<白玉の歯にしみとほる秋の夜の>ピアノが漂わせる、王者の如き風格。貴婦人のような高貴な気品を感じさせるたたずまい。『第5番』『第4番』の協奏曲とも、第1楽章の非常に聴きごたえのあるカデンツァ、第2楽章のたゆたうように美しい音楽を通って、おしまいの第3楽章に聴き入っている頃には、どこかこの世ならぬ桃源郷に連れて行かれたみたいな心持ちになっていました。そんな夢のような、至福のひとときを味わわせてくれたルービンシュタインのピアノに乾杯!
録音は、ロイヤル・アルバート・ホールでの演奏会の翌日と翌々日に行なわれたもの。1975年3月10日と11日、録音場所はロンドンのキングスウェイ・ホールにて。
このCDを聴いてみる気になったのは、先般堪能させられた『アート・オブ・ピアノ』のDVDの中、ルービンシュタインが弾くベートーヴェンの『ピアノ協奏曲 第4番』の第1楽章のカデンツァの演奏に感動したから。その映像は、本CDに先立つ七年前の1968年、アンタル・ドラティ指揮するロンドン・フィルとのもの。機会がありましたら、そちらもぜひ、鑑賞してみてください。