息子を殺された父親と母親が主人公の物語。表面的には犯罪被害者の人権を考えさせられる側面、また復讐の物語としての側面もある。しかし、この物語が素晴らしいのはまず悲劇を乗り越えようとする時期の人間の危うい心のバランス・怒りを巧妙に描いていることだろう。平穏を装う夫婦がお互いに対する感情をぶつけ合うシーンはこの映画のクライマックスと言っていい緊迫感で圧倒される。
しかし、この映画のすごい所はそこではでなく、男の家に行った父親が壁に男の子供の絵や男が愛する妻との写真を見つけ、夫婦の立場で男を描いてきた映画が一瞬男の側の正当性を暗示するところだ。
理性ある人間として生きてきた筈の父親は、しかし、そこで敢えて自分の行為を止めない。それは「理性」を言い訳に責任を避けてきたことのツケを払わされたからだが、復讐を終えた後に自分の行為の正当性を問わずにいられない。その重い姿がいつまでも心に焼きついて離れない。
細かいところまで念入りに作りこまれた傑作と思う。今回初監督とはとても信じられない、トッド・フィールド監督作品。この名前を覚えておこう。