多くのことを学べて良かったが、それは原書の良さに過ぎない
★★★☆☆
内容紹介に「ゾロアスター...の思想は...キリスト教、イスラム教、仏教に大きな影響を与えた」とあるが、400頁を超える本書でそれらの点に言及しているのは延べ10ページ前後。比較文明・比較宗教学に触れることを期待してはならない。
本書は良くも悪くも直訳調。やや分かりにくい部分もあるが、原文の英語を想像すればきれいに理解できる。英文和訳としては良いということだろう。「奮闘的な信仰」(p.194)という表現が自然に感じられ理解できる人は、この訳書を買えばよい。英語がある程度できるならば原本を買うのも良かろう。編集者はしっかり読んだのか。
聖書と言わずにバイブルと言うのは(p.359)まだしも、聖バージル(p.214)には驚いた。「英語化された読み方が一般化されていると訳者が判断したその他の人名、地名は、一般の読み方に従った」(p.8)とのことだが、ちょっとした辞典を見れば一般化していないことは直ぐに分かった筈だ。その他、Haugをハウ「グ」、Anquetilをアン「ケ」ティル(eにはアクサンがない)などとしてある。印欧系古語の専門家は英語以外に独仏語の基本位は押さえていると思っていたが。
オーソドックスなゾロアスター教と教徒・教団の歴史解説本
★★★★★
本書は1983年の筑摩書房版の復刊ですが、原著が2001年に改訂されており、本書は改訂版に基づいているとのこと。ざっと両者に目を通した限りでは、素人の私には違いはわかりませんでしたが、ハードカバーである筑摩版よりも、文庫の本書の方が読みやすく、内容が頭に入りやすかったのが不思議です。
ゾロアスター教の歴史を描いた書籍としては、各時代を満遍なく追っていく、極めてオーソドックスな構成です。本書は英国の放送大学の講座テキストとのことで、著者の本格的なゾロアスター教史本は、全6巻の大著とのこと(3巻まで刊行したところで著者逝去)。本書は簡易版なわりには、充実した内容です。ゾロアスター教や教徒・教団の歴史を時代毎に追っていて、アラブ征服以降も、モンゴル支配時代・サファヴィー朝・ガージャール朝・インドの教徒含め、20世紀後半までがほぼ同じ分量で扱われおり、文字通り「3500年」の歴史を描いています。教義を議論している書ではありませんが、最初の方で教義内容も扱われています。
ゾロアスター教の書籍は日本でも結構な数が出ていますが、歴史書となると、青木健氏の「ゾロアスター教」「ゾロアスター教史」と本書に限られると思います。3著はそれぞれ異なった特徴があり、青木氏の前著は、現存するゾロアスター教から坂上って祖先の宗教史を描くだけではなく、「古代のアーリア人の宗教」全体も大きく扱っているところが特徴があります。青木氏の後著は、ゾロアスター教の歴史に絞ってあり、ボイス本と同じ主題を扱っていますが、ボイス本が歴史を丁寧になぞって行くのに対して、青木本は、図版や視点を工夫しており、意外にかぶらない内容となっています。
各時代をはしょることなく愚直なまでの記述が続くので、面白みはいまいちですが、歴史書としては極めて基本的な書籍と言え、お奨めです。