訳に難あり
★★★☆☆
レヴィナスじしんにも深い影響をあたえたといわれるレヴィナス論「暴力と形而上学」を所収。レヴィナスの解説書・研究書にとりあげられないことはないぐらい有名な本論は、レヴィナスの思考がかかえこむ困難を透徹な論理でえぐりだすとともに、初期から「第一の主著」ともくされる『全体性と無限』にいたるまでのレヴィナスの歩みを要領よく整理してくれてもいる。ただ、visageを「素顔」と訳すなど、現在の定訳からすれば見慣れない訳語が選定されていることは本訳書の出版時期を考慮すれば納得できるとしても、たとえばtranscendantalを「超越的」と訳したり、『存在と時間』に言うUneigentlichkeitの仏訳であるinauthenticiteを「非正当性」と訳したりするといったなど、明らかな誤訳が散見される。特に前者については決定的な誤解を招きかねないので、原書なり独訳なり英訳なりを傍らにおきながら読んでいくことをおすすめする。