すこやかな日々
★★★★☆
淡々とした文章で読みやすく、そんなに長くないので読み終わるのも
早かったのですが、読んだ後しみじみと「良い本を読んだ」という
気持ちになれる本でした。
それぞれのキャラクターがみんな魅力的で、人を書くのが上手い
方だなと思いました。特に達貴さんの義理のお父さんは、ほんの
ちょっとしか出てないのにいい味でした。あと、編集者の君津さん
が良かったです。どこかで見たことがあるような?と思いつつ、
そのパワーと子供っぽさと暴言に笑ってしまいました。
主人公の生き方を新人編集者の女の子が「すこやかな日々」だと
言うのですが、なるほどなと思いました。もう若くもなく、独身で
仕事にスランプも感じたりして決して楽しいばかりの日々では
ないのに、ゆったりと時間が流れている感じがとても素敵でした。
こんなふうに暮らしていけるなら年をとるのもいいな。
星4つにしましたが、非常に星5つに近いです。
再び歩き出すまでの物語
★★★★★
立ち止まってしまった者が、再び歩き出すまでの物語。
それは、作者である大島真寿美が繰り返し書いてきた題材だ。しかし今までの彼女の作品の中でも、今作はもっとも、主人公の再生までの過程が穏やかに、わかりやすく書かれているのではないだろうか。
死に続ける玖美子と、生き続けなければいけない佐紀。
生きているということは、変わっていくということだ。いつまでも変わらない死者を心の中に押し込んで、でも否応なしに変わっていく自分に戸惑いながら、歩いていかなくてはならない。それが、生き続ける者たちに課せられた宿命なのだから。
しかし変わらないものもある。決して変わらないものも、この世には確かにある。たとえ歩くことに疲れて立ち止まってしまったとしても、それらが、変わっていく自分を受け入れるための勇気を与え、そして再び歩き出す。この作品の主人公の佐紀も、そして、私たちも。