辛口評価
★★★☆☆
海軍大将77名全員を批評し、エピソードを紹介しています。巻末の「略歴」は簡便な資料として有用です。
姉妹編の『歴代陸軍大将全覧』が、全134名の陸軍大将を明治、大正、昭和の3分冊にしているのと比べると、77名を1冊としているので、1人あたりの論評が少ない感じです。全体的に辛口。半藤さんをして、「きびしいねえ、みんな」(372頁)と言わしめています。
ところで、「陸の長州海の薩摩」といいますが、確かに、鹿児島県出身の海軍大将は17名で、2位の佐賀県6名を断然引き離しています。ちなみに、陸軍大将はさすがに、山口県出身者が18名でトップですが、2位は鹿児島で、15名。陸海軍大将あわせると、33名が鹿児島出身。2位の山口県出身21名をこれまた大きく引き離しています。帝国陸海軍は薩摩閥だったのですね。
また、攻玉社は兵学校の予備校として著名ですが、海軍大将77名中、14名が攻玉社中の出身者です。恐るべし。
帝国陸軍vs帝国海軍 大将戦
★★★★☆
歴史探偵・半藤一利さんが中心の、帝国陸海軍の大将列伝の海軍版。陸軍版が三分冊になっているのに、海軍は一冊で済んでいるのは、海軍大将の絶対数の少なさだけではない。よくも悪くも、政治家軍人が多い陸軍に比べて、海軍はテクノクラート集団だけあって、後世に名を残す印象が強い大将は少ない。
筆者たちも、何人かの有名大将(山本権兵衛、東郷、山本五十六、伊藤成美など)を除くと、そっけない感じだ。
海軍派の私としては、ちょっと残念!ということで星4つであるが、草創期から滅亡にいたるまでの、海軍史を人物から俯瞰できる、出色の書であることは間違いない。(でも、陸軍編のほうが、面白いなあ)
敗戦にいたる海軍の責任者を選ぶとすると、
★★★☆☆
これら海軍大将たちのなかから、大日本帝国に敗戦をもたらした海軍側の責任者を選ぶとなると、衆目の一致するところ、まず間違いなく筆頭に来るのは、「元帥・伏見宮博恭王大将」だろうね。
海軍軍令部総長として、将官最先任者として、艦隊派・アンチ軍縮条約派として、昭和期の海軍人事に絶大な影響力を行使した責任は隠しようがない。天皇免責との関連で、宮様なので戦犯指名とはならなかったが、太平洋戦争開戦までの流れのなかで日本海軍の果たした役割と責任を問うとなると、海軍側ではA級戦犯候補の最右翼といえる。
2人目は「元帥・永野修身大将」。これまた誰からも異論が出ない線だろう。
独ソ開戦にさいして南部仏印進駐を強く押し、米国から石油禁輸を食らうと、あとはもう日米開戦一直線になってしまった。極東国際軍事裁判では海軍側A級戦犯のトップにあげられたが、裁判中に病死する。判決を受けるまで存命だったら、死刑だったか、それとも終身刑だったか、さて?
3番目は「及川古志郎大将」だろうなあ。第2次、3次近衛内閣の海軍大臣として、三国同盟締結と日米交渉における中国撤兵問題の不決断と、この両方の責任者だった。
たまたま太平洋戦争中は軍政系統の役職に就かなかったためか、A級戦犯訴追を逃れてしまったが、どうして彼が戦犯を外れたのか不思議なくらいだ。陸軍の田中隆吉に相当するような、連合国側に内部情報を売る存在が、海軍にはいなかったというわけか。
その次が「大角岑生大将」。犬養内閣5・15事件と岡田内閣2・26事件のときの海軍大臣として、条約派を片っ端から予備役に廻し、海軍中央部を艦隊派で固めた張本。
もっとも、当人にはコレといって見識があったわけではなく、だいたいは伏見宮の意向に諾々と従った処世術だけ。日米開戦直前、飛行機事故に合って亡くなったのも、何となく影の薄い存在にしている理由。
それから「末次信正大将」。彼は外せないだろうね。
東郷元帥や加藤軍令部長、伏見宮あたりを引っ担いで、ロンドン海軍軍縮条約を潰そうと企んだ艦隊派連の中心的存在だったといえる。たとえていえば、陸軍の真崎甚三郎と同類、その海軍版といった役どころ。2・26で真崎が失脚したのに対して、末次は、政治家に転進して国家政策への影響力を残したが、戦争末期に死去したのでA級戦犯にならなかった。
あとは、「元帥・東郷平八郎大将」、「加藤寛治大将」、開戦時、東条内閣の海軍大臣だった「島田繁太郎大将」、それと「高須四郎大将」ってところが横一線というあたりかな。
陸軍=悪、海軍=善でもない
★★★★☆
中学生の頃、軍事オタク化しかけたことがありました。さすがに浮いてしまったので、もう二度とこの領域に深入りはしませんが、歴史として一応知っておこうかと。優秀な提督はやはり日露戦争を指導した世代までのようです。太平洋戦争指導層は、井上成美以外はことごとくバッサリやられていました。総じて、軍人というイメージからかけ離れた普通の人たちといった印象を受けました。東郷平八郎が日露戦争後の日本海軍の人事面におよぼしたマイナスの影響などについても書かれています。日本海軍については、いろいろな俗説があるようですが、この本は比較的そういったものから自由なのではないでしょうか。ただし、客観性についてはやや割り引いて見るべきと思われます。
海軍という組織の成功と失敗から学ぶところは大きい
★★★★★
新書としては非常に珍しい分厚さ。
勝海舟から第二次大戦終戦までの大将がすべて収められている。
軍隊という最も合理的であるべき組織のトップである大将たちを見ているとその時代の日本の成功や失敗をよく象徴している。日清・日露の成功と第二次大戦での挫折に至るまで大将を見ていくと人材登用のあり方の成功と失敗とがよく連動しているのが見て取れる。
いつの時代であっても通用する組織論の教訓が汲み取れる。