事例に学ぶ。
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本書に掲載された「組織行動」による各種事件を、その動機から循環的に負のスパイラルを描き、泥沼から出て来れなくなる顛末すべてを詳細に説明してあり、事件の背景から原因、処置に至るまでよく分かります。
真相解明とその真の原因追求する分析手法として、まさしくロジカルシンキング、つまり論理的思考を展開することにより行われています。
枝葉を取り除き、根幹部分に突き進み、真因の要因分析をするそのプロセスには、理を説く巧妙さが伺われます。
これらは論理的に原因究明手法を学ぶ事例としても大いに参考となります。
こういった事件より、その”事例に学ぶ”という行為、それをきちんと検証しておくことは、会社ひいては国家として、まさしく”結果から生じた財産”なのです。
単なる”人的ミス”であると原因特定すれば、なんでも簡単にすむ時間のかからない話なのです。
多くの事象は、安易に”人的ミス”と断定されがちです。
それを許さず、「組織行動」といった奥の領域まで入り込んで、”人的ミス”を起こさせる要因は、組織のコンプライアンス、理念、行動方針、リスクマネジメントなどにあると突き止めてこそ、”真の改善”、”抜本的な改善”、”事件や事故の再発防止”につながるということを力説しています。
社会人の方々は、ぜひとも読んでおくべき本です。
本書は、マスメディアのような持論展開や偏向的な観点で書かれておらず、直球勝負、真っ向勝負で、事象の真髄のみを貫いており、それらの内容を丁寧に紐解いて書かれているのでよく理解できます。
こういった”事例に学ぶ”ことにより、事象を検証・分析し、解決に導き、再発防止に至る改善の仕方を学ぶためにはおススメします。
不祥事を他山の石としてリスク管理の教訓を学ぶ
★★★★☆
著者の「組織行動」シリーズの第3弾。この数年間に発生した不祥事の実例を紹介し、警察キャリア官僚である著者が持ち味とする緻密な分析で、事実関係を見つめ、不祥事を”他山の石”としてリスク管理上の教訓を惹きだそうとしている。その意味で『不祥事は財産だ』という著書名の狙いは成功していると思う。
個々の組織におけるリスク管理の要諦は、いかにリスク・リテラシー(リスク読解力)を高めていくかであると著者は語る。これは、職場に潜在しているリスクを把握するための洞察力、それが発現した場合にどのような危機が生じるかを予測する想像力、リスク管理対策の必要性を認識する理解力を総合したものと解説する。
これを組織力として強化していく事は決して楽なものではないが、組織内の努力で克服できるものである。
一方、不祥事を報道するマスコミとの関係は、いかに伝えるかの問題であり、その伝え方を誤ると、問題の本質から外れた表層的な報道の攻撃を受けて、企業の存在を危うくしてしまうリスクを抱えることになる。そして、本質的な問題が議論されることなく、同様の不祥事が将来再発する可能性があることを著者は静かに語っている。
読者の読み方によって、コンプライアンスの視点、マスコミとのコミニケーションの視点、不安全行動をなくしていく組織安全衛生の視点、経営戦略の視点、または、営業戦術の視点から読んでも教訓を得られる内容になっていると思います。その意味で、どのようにこの本を読み取るかは、読者ひとりひとりのリテラシー次第ということが言えるかもしれません。
遠い昔も、近い昔も、長い目で見りゃ、どちらも歴史
★★★★★
第1章から第3章までは、近年発生した不祥事の実例を、第4章は、教科書に載る遠い過去、「歴史」上の出来事を、たたき台としている。
第4章第1節では、「徹底性の不足」により自壊を導いた朝倉義景の失策を紹介し、そのうえで著者は、リスク管理徹底の重要性を説いている。
リスク管理体制を敷くには、「職場に潜在しているリスクを把握するための洞察力、それが発現した場合にどのような危機が生じるかを予測する想像力、リスク管理対策の必要性を認識する理解力などを総合した」、「リスク・リテラシー(リスク読解力)」を持つことが、全社員に求められる。
「社内のリスク管理対策の意義を理解できないリスク・イリテラシー(リスク文盲)社員」の存在は、全社的なリスクの拡大、組織崩壊を招きかねない。「有無を言わさず」、「リスク・イリテラシー社員」をリスク管理対策の世界に引きずり込む「徹底性」が、経営者には求められる。さもなければ、「徹底性不足」により自壊を招いた朝倉義景の二の舞となろう。
第4章第3節では、乃木大将の実像が陸軍大学校の兵学教官の筆によって歪曲されてしまった事例を紹介している。
なぜ、乃木大将の実像は、歪められたのか、それは本書を手にとって確認していただくことにする。
ただ私は思うのだが、私の文章を含め、どれだけの文章が、報道が、『意図』してかあるいは『意図』せずしてか、歪められていることだろうか。この歪みに惑わされず、真の姿を見極めなければならない、という姿勢を、本書から読み取った。不祥事のみならず、不祥事を歪めて伝えることも、一つの不祥事かもしれない。
重大インシデントは、たくさんのミスの結果
★★★★☆
「なぜ重大ミスは起きたか?」。警察キャリアである著者の行政官らしい緻密かつ明瞭な分析が楽しめるミス研究の第3弾。報道では、「当事者が悪い」「管理体制が悪い」とエピソードを野積みして終了…となる組織の重大ミスについて、本書はミスが起こり、発覚するまでの長い道のりを示し、そこに至るまでに多くの人がかかわっていることを強調する。担当者、ミスの火元だけではなく誰かか気づけば…なのに結局ミスを見逃す組織体質がミスを生む、著者は文末でそう結論づける。
扱っているミスの多くは堅実ではあるが読ませる分析で、ミスを起こした組織のゆるみを指弾するが、シンドラーエレベーターや赤福については、一方的な断罪はしていない。エレベーターは一義的には保守業者のミスで、エレベーター業界の特異な業界慣行にも要因があることを指摘した上で、シンドラーの「態度」という本来的ではない要因で、「主犯」ではないシンドラーが火の粉をかぶることになったと見る。赤福は、ミス事案について、事前に法令に適合しているか保健所に確認をしたのに、管轄外の法令に保健所が何も回答しなかったために、合法と勘違いしてしまったという運の悪さもあるという。
文末で、著者はもう一つ重要な教訓を述べる。過去の失敗も、不適切な記述がされれば誤った教訓を引き出し、有害な結果をもたらす可能性がある、というものだ。日露戦争旅順攻防戦について、正攻法を否定し賭博的な作戦をよしとする、誤った戦訓が参謀教育の方針となったと、著者は考える。旅順攻防戦の正否、乃木・伊地知コンビの妥当性は、坂の上の雲のイメージが強い自分個人としては何とも言えない部分があるが、著者の考えも一理あると思う。本書はこのように、面白い事例分析だけではなく、ミスを学ぶ上で、参考になる教訓が多く含まれていると思う。
他山の石のために
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危機管理の専門家が書いた本です。
雑司ヶ谷下水道事故
三菱化学鹿島事業所火災事故
海上自衛隊イージス防衛秘密流出事件
シンドラーエレベーター死亡事故
加ト吉循環取引事件
赤福不適正表示事件
等の事故、事件が何故起こったのか、どうしたら防げたのかを解説してくれています。
自社で事件を起こしてしまうと、会社が無くなってしまうかもしれません。
この本を他山の石として自分自身を磨くために是非利用することをお勧めします。
会社の不祥事は誤魔化そうと思ってもいつか明らかになってしまいます。
公表までの時間が経てば経つほど被害が広がることを学ばなければならないと思います。