リフレッシュに箸休めな本です。
★★★★★
こういった海外で活躍する、もしくは生活している日本人の足取りを追ってルポルタージュしたものは、兼ねてより東南アジア系でよく見られましたが、ヨーロッパバージョンというのは初めてのものかもしれません。
タイトルから類推すると、まるでウィットに富んだ”食べ歩き本”のようなイメージですが、そうではなく、”日本を離れ、はるか遠くのパリで、(必死のパッチで、概ね二流な)生活をしている・・・”という姿を描写するものです。
そこには、いろんな経路を辿ってパリにやってきたわけですから、それなりにそれぞれ、山あり谷ありの計り知れぬ人生劇場があるのです。
著者は、パリに辿り着いた日本人と知り合い、なるだけ感情を抑え、Face To Face コミュニケーションにより、客観的にその人物像を映し出そうとしています。
それらは、あまりじくじくした暗いイメージのものではなく、何かひとすじの光明を求めてアグレッシブに進んでいくようなみなぎる力を感じるものです。
すっと吸い込まれるような語り口調で書かれており、読み易く、ちょっとリラックスするときの読み物に適していると思います。
また、まだまだそのベールが未知である著者の次作にも大いに期待しています。
著者が奏でる音楽はなに?シャンソンでなく、ジャズでなく、
★★★★☆
本の題名からグルメ本かと誤解したが、ちがいました。400字詰原稿用紙で488枚にのぼる書下ろしエッセイ(内容はルポルタージュにちかいのだが、文体はエッセイ)。わずか4頁の扉の「はじめに」が秀悦です。この本のエッセンスと、処女作だとは思えない著者のエスプリが躍如かと。すべてを要約して余りある。
「住み始めてすぐ、この街の日常生活にこまごまと苛立ち始めた。(略)溜まったイライラが頂点に達したあと、ついに全てがどうでもよくなった。すると、不思議なくらい突然にパッと視界が開けて、全く違う景色が見えた。あ、私はパリを誤解していたものかも。」
「周りのパリジャンたちを見回せば、誰もが気楽に自分のペースで生きていた。(略)そうか、それでいいのか。これがパリの生活なんだ。そう気づいたら、身体から力が抜け、前よりも少し自由になった。それは、几帳面さと常識が幅を利かせる東京からやって来た私には、素晴らしい報せだった。」
そうして“目覚めた”著者は、毎日街へ出かけ、行く先々で、日本人に会う。そう“パリでメシを喰うために”己の知力・体力のすべてを掛けて働く彼・彼女らに出会い、話を聴く。「私でいいの?」「こんな話でいいの?」「僕の人生なんか、誰の参考にもならないよ」と戸惑う普通の、しかし人生が冒険だと知っている日本人相手に。自己(=これが自分)を、生きる根っこをしっかり持っていなければ、パリ症候群にやられてしまう。
“「出発」した人だけが、失敗も、挫折も、味わえる(運が良ければ成功も)”=パリで客死した哲学者・森有正の言葉を思い出した。「運命」なんか凡そ似合わない、おシャレで、力強く、生きる希望に溢れた軽い本なのだろう。文庫判なのがもったいない。外国人版の「東京でメシを食う。」を期待したい。
パリで生活する日本人の軌跡と横顔
★☆☆☆☆
フランスのパリで生活する日本人10人に著者がインタビューし、その軌跡と横顔を綴った作品。
割と爽やかな内容で、本書を読んでポジティブになれる読者もいるのではないかと思う。
それほどポジティブなエネルギーを求めていない読者の嗜好に合うかは分からないが。
ネーミングセンスの良し悪しとは別に、タイトルの「メシを食う」という比喩はあまり好みでない。
ヒトが生きていく上で食うことは不可欠で、文明の恩恵に浴する誰もがその過程に携わっていることを認識しながらも、他の生物や自然環境に強いている犠牲を大局的に捉える視座を持ちたい。
読んでいて幸せな気分になりました
★★★★★
本書は「パリで働く日本育ちの人々」をインタビューして1冊にまとめたものです。
著者が描き出す人々は有名人ではなく、ワーキングホリデーで、留学で、あるいは他の理由でフランスにやって来て、やがて職を得てささやかに生活している人たちです。友人の友人にこんな人がいるかもしれないと思わせるような、決して特別な人たちではないのですが、彼らは真摯に人生と対峙しています。その生きざまに「私も頑張ろう」と励まされるような、不思議な力をもった本だと思います。
またタイトルが秀逸だと思いました。「パリでメシを食う。」ってグルメ本?と思わせておいて、実は「パリで働きながら日々の糧を得ること」を指しています。目次のデザインも工夫が凝らされているし、皆さんの写真の表情も素敵で、本を読んでいて幸せな気分に包まれました。
本物のパリ生活の話だけじゃない。元気と勇気をもらえる。
★★★★★
最初は自由で素敵なパリ生活を描くエッセイ集かと思って
手にとりましたが、実際にはそれにとどまらない作品でした。
パリの様々な地区の景色が目に浮かび、そこで自由に、
一生懸命に生きる人々の生活が鮮やかに描かれています。
描かれている人たちは決してパリの著名人でもなければ
華やかでもないふつうの人々。自分自身の生活とも
重なるところは少ないはずなのに、時にはユーモアを
交えて、テンポがよい語り口で描かれる彼らの暮らしぶりや
人生にどんどん吸い込まれていってしまいます。
そしてこの本は、何か新しいことや変化に飛び込んでいく
勇気(それも必要以上に気負わずに。)をくれるのでは
ないかと思います。