上手いです
★★★★★
宮木あや子さんといい、この作者さんといい、女による女のための
R−18文学賞のレベルは大変高いなと思いました。
決して幸せな出来事を書いてはいないです。なのに読後いやな気持ち
になることはなく、ハッピーエンドかどうかわからないのに前向きな
気持ちになれる本。
主人公(?)の斉藤くんの、今風の男の子でありながらもさりげなく
ものすごく優しいところが好きです。彼を好きになり、何があっても
好きなままでいる七菜ちゃんもかわいい。男を見る目があると思います。
「本当に伝えたいことはいつだってほんの少しで、しかも、大声でなく
ても、言葉でなくても伝わるのだ」という言葉が印象に残りました。
名作です。素敵なお話をありがとうございました。
日陰から日向へ
★★★★★
青少年のエロい妄想のような書き出しで、恥ずかしながら、いきなりグイグイと引き込まれた。
高校一年生の斉藤卓巳は友人に無理に連れられコミケに出かけ、主婦あんずと出会った。“むらまさ”とかいうアニメのキャラクターに似ているという理由でかわいがられる。あんずの部屋に行ったついでに押し倒してみたら、そのままヤレちゃって、あとはずるずるとあんずの部屋にヤリに来る日々。年上の女性に台本を用意され、それに従いセックスをする。
「やっぱり妄想だよなー。」
ところが冷静になった卓巳が彼女から離れると、思いもかけない自分の心に気づく。普段着のあんず、自分の全く知らない本当のあんずに彼は恋をする。そして取り残される。
この愛と性欲の、強力な力を感じさせる最初の章「ミクマリ」は、それ自体が文学賞を受賞した完成された作品である。それにもかかわらず以降の展開への絶妙な布石となっている。
第二章の主人公はあんずである。いろんな点で恵まれないあんずの文章はやや舌足らずで、そんな女性にとって、性欲の存在はとても重要で切ない。変態と呼ばれてもかまわない、そんな日陰の住人のあんずは卓巳の残酷な未来を予想する。
このあと章毎に主人公を変えながら小説は展開していく。性欲が愛を振り回すのか、愛が性欲を振り回すのか、そもそも両者は分けられるのか。登場人物はそんな愛や性欲に傷付けられた、決して立派ではない人々だ。愚かと言っても良いかもしれない。
子供の頃から必死に生きてきた高校生は、バイトリーダーの心の奥底に抱えた闇を見て、初めて彼に心を赦す。また彼を赦す。そんな人々の優しさと善意と強さが少しづつ積み上がり、この小説は暖かな物語へと変わっていく。
そして卓巳を再び日の当たる世界へと送り出す。
読後には第一章「ミクマリ」では思いもしなかった暖かさが心に残った。
『ふがいない僕は空を見た』
読了後、私は晴れ渡った気分で空を見上げた。
だから、生まれておいで
★★★★★
このろくでもなく夢も希望もない、だけど、それと同じだけ素晴らしい世界に、生まれ落ち生きる意味。
その一欠片が、この本の中で優しく強く語られている。そう感じます。
名著。ずっとずっと本棚においておきたい。
女性による女性のためのユートピア物語
★★★★★
五つの短編集と見えて,実は5章から成る物語と思う.始めのミクマリの章は,16歳の男の子がおれで,一回り上の既婚の女にナンパされた揚句のセックスが荒々しく描かれる.青春小説にしてはラフだな,と思って次の章に移ると,結婚5年で子供が出来ない妻の悲しさが延々と綴られる.そうしてこの妻 (私) が,おれの相手だった,と判る.次の章のあたしは,斉藤くん (おれ) の忠実な恋人で,胸が小さいのを気にしている.恋人とセックスに励めば大きくなるかしら,と思うがまだ機会がない.斉藤くんの不倫はマゾな夫がモニターしていて,写真とヴィデオがネットに流され,スキャンダルになる.第4章ではぼくが登場する.斉藤くんと同学年.アルバイト先で優秀な元予備校の先生の目にとまり,特訓されて成績優秀になるが,子供のころからの万引きのくせが治まらない.そうして特訓してくれた先生は強制わいせつのかどで検挙されてしまう.最後の章は斉藤くんの家.シングルマザーの母親が助産院を営んでいて,スキャンダルに巻き込まれた一人息子も心配だが,殺到する産婦を相手にして手抜きは許されず,若い助産師一人の助けを頼りに無理を重ねている.こういう次第で,男にはまともな人物がなく,産みの苦しみにあえぎながらも,子供を生もうとする女たちとそれを助けるお産婆さんたちだけが栄光に包まれて見える.つまりは女性が作り上げる一種のユートピア物語で,それにしては文体の使い分けも見事で,良く書けている.これは著者のデビュー作.強く推薦.
柊舎《目指せ、1日1冊!》
★★★★★
高校一年の斉藤卓巳。主婦・あんずとのコスプレエッチな関係があった…。
卓巳を好きな女子高生、団地で暮らす同級生、助産院を営む母、その関係が広げる波紋は…。
第8回「女による女のためのR‐18文学賞」大賞受賞、本屋大賞2位。
◆視点を変えて語られる連作短編集。
最初の「ミクマリ」はR‐18文学賞なので、確かにエロっぽいです。
だけど、ここで諦めずに最後まで読んでいただきたいです。エロ度はどんどん下がります…。
でもこの物語をきっかけに、視点を替えるごとに物語は深くなっていったように思います。
性は生命につながりそして生きることに繋がる…そんな物語に…だからこそハッピーエンドというわけでもないのに、希望とか明るさを感じるのかもしれません。
個人的にお気に入りは「セイタカアワダチソウ~」。
やるせない閉塞感とかがなんとも伝わってきます。
でもだからこそ人は足掻いてみるものだし、ヤケにもなるし、人を羨みもするのでしょう。
その描き方がとても良かったと思います。
今後この作者がどんな物語を描くのかが楽しみですね。