才能ある情念系の元祖と言われていたのがケイトブッシュ。このアルバムは80年代末に発表。バルカン、ケルトを大胆に取り入れた神秘的女性ヴォーカルというと、エンヤやビョークもそうだ。ケイトブッシュはそれを、オルタナティヴロックのフォーマットでやっちゃう天才。しかも、“女性性”が前面に出ているのに、フェミニンさが鼻につかない。というのは、この人の音楽が恣意的なものではなく、素の彼女から生み出されているからだと思います。これは彼女いわくコンセプトアルバムではないらしい。前作でも顕著だったが、子宮で考えられた音の波が彼女の頭を通して表現されているようなアルバムで、今までよりアコースティック。目に見えた過激さやエキセントリックさはありません。彼女のフォロワーはたくさんいるし、ケイトと同様に才能があります。だが、ケイトブッシュほど音楽で瞑想しているミュージシャンはいない。仙人のような人物でないと作れない凄味のある音楽がこれ。天才がいいミュージシャンに囲まれ、自分の世界を探求した人だけが作れる作品。私も自分なりに多くの音楽を聴いてきましたが、このアルバムは格別です。凄過ぎて私の言葉が追いつきません。とりあえず聴いてください。

’89年にリリースされた本作、前作のHounds of loveに比べて、キャッチーなヒット曲が含まれないこともあって地味な存在のようですが、サウンドクリエイターとしてのKateの面目躍如たる好盤です。
数年後にリリースされてヒットしたRed Shoesまで引き継がれる音作りと思いますが、Kateの繊細で妖艶なヴォーカルの背後にブルガリアンボイスを配したり、東欧から中東あたりの旋律や音色が随所に彩を添え、いつもながら凝ったサウンド作りがなされています。本作中のどの曲がどうといった思いもなく、Sensual Worldの音に浸ってみたいと思うことがあります。

数年に１作、もしくはそれ以上の間を置いてリリースされているKateの作品。スタジオワーク中心に丹念に練り上げられたこった音作りがなされていますが、本作はその中でも音の色や響きに、彼女天性の（さらに女性にしか作りえない）冴えを見せてくれている作品と思います。そう思うとタイトルに関しているSensualの意味合いもわかってくるような気がします。