古書には興味がなくても、ここに満載の古書をめぐる話はとてもおもしろい。たとえば、著者は、1955年に早大仏文科を卒業した学生の記念文集を手にいれる。そこに酒の飲みすぎで早世したMという男のことが出てくる。酒と女と病気という文学青年的悩みを抱えたこの男の失敗談を、友人たちが懐かしく回想している。Mの忘れ形見・滋さんからも文章が寄せられた・・。脚注があって、Mとは室井で、もちろん室井滋さんのことだよ、と教えてくれる。脚注は、どうやら著者のひとり言的コメントといったものらしい。
古本が好き(というより本が好き)という人は、こんなふうに街の本屋を渡りあるくのか、とあらためて関心したり、こんな人と論争をしていたの? といったゴシップ的興味も満載。ちょっと地味すぎる装丁と(悪くはないが)、二段組みの活字の小ささに損をしているような気がするが、ぱらっと中をのぞけば、読みたい本かどうかは即座に判別できる。「書を捨てて町に出よう」ではなく「書を求めて町に出よう」の一冊。しかしそれに値する町は、日本にどれほどあるのだろう。