主人公は魅力的なのだが・・・
★★★☆☆
取調中に容疑者が服毒自殺したことで左遷させられた江波警部補の人生再生の物語です。
江波警部補は魅力ある人物なのですが、笹本稜平が得意とする壮大な冒険小説と比較すると物語の面白味に欠ける。と言うより、笹本稜平に求めるものと本作のギャップがあると言った方が正確だなぁ。
湘南ダディは読みました。
★★☆☆☆
無実の女性を取調べ中に服毒自殺させてしまった江波刑事が本来その取調べを強行させた上司に問われるべき責任を転嫁され、奥多摩の山里の駐在に左遷される。官僚組織化された警察内部の軋轢に嫌気がさしていた江波は、休日には奥多摩の山々を登攀したり、土地の人々とのふれあいも豊かな駐在所勤務に新たな日常を見出そうとしている。しかし、そんな山里でも捜査本部を置くような事件が発生し、その都度、自分を左遷に追いやった上司が現地にマスコミを意識して鳴り物入りで乗り込んでくる。一方江波には、本庁のかっての部下や地元のガイドの青年、ある事件をきっかけに知り合いとなった女性など味方になってくれる人々がいて、江波の事件解決に協力する。6件の事件が起き、それぞれ謎解きは短い章立てとしてはヒトひねりされているし、各篇とも奥多摩の山中が舞台となって山岳小説の趣も確かにないわけではない。
ご紹介も以上で、ぶっちゃけのところ週刊誌の読みきり連続小説の感があり、まあ文章の味わいとか読後の感動とかいった文学論的なお話はヌキにして、良くも悪くも手軽に読むことができる作品です
物足りない印象
★★★☆☆
警察ものの短編集であるが、笹本稜平標準からすると物足りない印象。元来、長編を書く作家が無理に短編を書いたからなのか、冒険小説を得意とするにも関わらず、警察小説に手を出してしまったからなのかはよく分からないが、どうも短編それぞれが決められたページ数を意識しすぎて、展開がギスギスしてしまっている感じ。そうすると、読み手としても残っているページ数を意識してしまい、小説に集中する以前に、どうやってフィナーレに向けてまとめていくのかという方を考えてしまう。悪循環である。次作は、また本来のスケールの大きい長編の冒険小説に戻ってほしいもの。
駐在所所長という設定は生きている
★★★☆☆
「日本の警察システムの中で優れている者は何か?」という問いに対して、最も言われるのが「交番のネットワーク」。その中でも、一人の警察官がそこに住みこむ駐在所は、地域とのつながりも深く、独特のものがある。そんな駐在所が本作の舞台。
駐在所を舞台にして、地域とも深い繋がりを持っている、という設定は十分に生きていると思う。例えば、地元の小学生との触れ合いであったり、徘徊老人の捜索を頼まれたり、はたまた、落し物として犬を連れられてきて困ったり…と言った辺りから思わぬ方向へ転がって…という流れが中心であり、その辺りはちゃんと抑えられているな、というのがまず感じたことである。そんな一、駐在さんが、警視庁の捜査に逆らって一人、事件を解決してしまう…なんていうのは、2時間ドラマっぽいけど、これはこれで良いと思う。
ただ、気になったのが2点。まず、全体的に真相へ辿りつくまでの過程が強引。もうちょっと丁寧に伏線などが張られていれば…と思った話が多い。もう一つが、ここ一番で毎回、山登りしているという印象が強かったこと。山深い奥多摩が舞台とは言え、毎回毎回山登りしたり、山狩りしたり…というのは流石に不自然(1話は、槍ヶ岳まで山登りに行っているし)。その辺りに工夫が欲しかった、と感じる。
それぞれの登場人物は立っているし、これなら続編も作れそうなだけに、その辺りを克服した続編を期待してみたい。
やや強引?
★★★☆☆
それなりに面白かったのですが、犯人逮捕までの展開が、やや強引に思えました。彼の作品を読んだのは『グリズリー』に続いて2作目ですが、長編でじっくり書き込む方が得意なのかな、という気がします。『太平洋の薔薇』も評判がいいようですし。ただ、登場人物がなかなか魅力的なので、続編を読んでみたいとも思いました。筆力のある作家なので、書き続けることで短編のまとめ方も上達することを期待します。