本書の基盤となった研究は、経営コンサルティング会社であるブーズ・アレン・アンド・ハミルトンが始めたものだ。実務上の関心が一貫して根底にあり、著者がジャーナリストということもあって、記述は平易で読みやすい。巻末に100年間の主要できごとが整理されていて、その点も便利だ。
本書では、経営理論と実務における主な発展を10年ごとに区切って年代順に書いている。出発点は1901年から1910年の10年間。その章のタイトルは「ストップウォッチ・サイエンス」で、テイラーの「科学的管理法」が論述の中心だ。産業活動のリズムが広く社会全体を覆うようになる変化が、そこでは記述されている。「時刻は、もはや夜明けや教会の時計で知らされるのではなく、工場のサイレンや工場の時計の大きな音によって知らされるようになった」とある。
その後、フォードの大量生産ライン、GMのスローンの組織革新などの後に、ドラッカーをはじめとする偉大な経営思想の意義を論述する。そして、1980年代を象徴するのは「日本的経営」である。「日本に学べ」という当時の熱気が伝わってくるようだ。
本書を読み進め、100年の歴史を大観すると、20世紀がマネジメントの誕生と進化の世紀だったことがよくわかる。これは個別の経営論に終始した本ではない。経営論を超えて、優れた社会洞察を含む本になっている。
本書の弱点は、「マネジメントの現状」と題する最終章が弱いことだ。20世紀に、我々はマネジメントの概念を生み出し精緻化してきた。それでは、我々は今後どういう地平に行こうとしているのか。この点を示唆する明快な結論はない。レディメイドな解はないということなのだろう。(榊原清則)