率直なもの言い、万葉と新古今の違いも分かる
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万葉と新古今はどう違うのだろうか、という疑問を持っていたところ、本書で一つの答がえられた。よく引き合いに出されるのが「田児の浦ゆ…真白にぞ…降りける」と「田子の浦に…白妙の…降りつつ」について万葉の時代と違って新古今の時代はあらわに言わないで優雅な情趣を重んじた。また、「…夏来るらし…乾したり」と「…来にけらし…干すてふ…」について新古今時代の平安京では万葉原歌の香具山は地理的にも心理的にも遠い存在になっていたので、こういう間接的表現も当然だと言う。さて、この歌に関して中西進先生の東歌にヒントを得てこの諧謔的な歌を作ったのかも知れないという説に「どちらが先にできたか確証がない」と反論しているところが痛快である。「神山をユーモアの対象にするなんてことは、許されなかった筈である」と本気で怒っているような口調に、ユーモアがある(と言えば失礼に当たるか)。率直なもの言いに好感をもつ。
難解な新古今和歌集を、わかりやすく。
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この本によると、三島由紀夫は、『新古今和歌集』を忘れたから、日本語が汚くなった。と述べたそうである。
幼い頃に国語辞典を読破したという三島だからこそ、そう言えたのかもしれない。そう考えてしまうほど、『新古今和歌集』は、筆者の言うように、『一時一時目を凝らして読まなければ意味が分からない』和歌ばかりである。
だが、その難解な『新古今和歌集』を、和歌の歴史解説と『新古今和歌集』のメジャーな歌人についての解説を以って、分かりやすいものにしてくれた筆者に、敬意を表したい。
(NHKで取り上げられた『西行』(新潮文庫)とあわせて読むと、『新古今和歌集』の世界がより広がるだろう)
『新古今和歌集』だけではなく、それまでの和歌の歴史も知ることが出来る、二度おいしい本である。