ハウス、トランス、テクノの祖といっていい存在であるクラフトワークが、本作では逆にそれらの分野の手法を借用しているが、これでこそフェアーというものだろう。タイトル・トラックの3つのヴァージョンが切れ目なく続くオープニングは、15分間にわたる静かなミニマリスト風トランスの傑作だ。その前にプロローグが置かれ、メトロノームのようなリズムに乗って繰り広げられる多彩なサウンドスケープからいつの間にか本編に突入するという趣向である。滑らかなキーボード・ラインが「運動」を感じさせ、メロディーは揺らぎ、渦巻く。「Elektro Kardiogramm」では、心拍や呼吸の効果音までもが導入される。アルバムの頂点といえる「Vitamin」は、ディープなグルーヴやめまいを誘いそうなシンセ・フックをもっており、ピレネー山脈中のコースにたとえることもできそうだ。革新者たちが持ち前の先鋭性を和らげた『Tour De France Soundtracks』は、クラフトワークの初期作品のように影響力絶大ではないかもしれないが、輝かしい復帰作であることは間違いない。(Christopher Barrett, Amazon.co.uk)