「真のコンプライアンス」とは?
★★★★☆
企業による不祥事が数多く報道されている今、コンプライアンスの重要性が今まで以上に叫ばれています。本書はサブタイトルに「コンプライアンス=法令遵守が招いた企業の危機」とあるように、「コンプライアンス=法令遵守」という安易な理解の仕方が勘違いにつながり、企業による不祥事を助長するものだとして警告しています。
法令を遵守するために不都合な事実を隠蔽していたり、法令遵守を強調するあまり問題の本質が議論されないまま事件が風化していることがあるようです。筆者は、「単なる「法令遵守」を超えて、社会の要請に「適応」していくことが、真のコンプライアンスなのである。」と主張します。
では、そのような「真のコンプライアンス」を達成するためには具体的にどうすれば良いのか?
筆者は「真のコンプライアンス」を達成するための具体的な方法論として、「フルセット・コンプライアンス」という5つの要素を提唱しています。
1. 方針の明確化
2. 組織の構築
3. 予防的コンプライアンス
4. 治療的コンプライアンス
5. 環境整備コンプライアンス
方法論の提示に続いて、三菱自動車や雪印、官公庁などの実際に起こった事例を取り上げて、真のコンプライアンスについて、つまり「コンプライアンス=法令遵守」だけでは対応ができないことを解説していきます。
それぞれの説明はたしかにわかりやすく、たしかに文字通りの法令遵守だけではコンプライアンスが達成できないということはわかります。
しかし、せっかく「フルセット・コンプライアンス」という名前までつけて5つの要素を説明しているにもかかわらず、例えばこの5要素を実際の事件に当てはめて、本当はこうやれば良かったという説明がなされていないのが残念でした。
ところどころに5要素(あるいはその一部)を取り上げて説明しているところはあるのですが、せっかくなのでフルセット当てはめて解決するということを示してもらえると更にわかりやすくなると思いました。例えば、
a. 事件の紹介
b. 事件の真の問題の解説
c. フルセット・コンプライアンスの方法論を利用した解決策の提示
という形式で統一して様々な事件を紹介してもらえると、「フルセット・コンプライアンス」自体を知るだけでなく、その活用法も理解できて良かったのではないかと思いました。
とはいえ、「コンプライアンス=法令遵守」という単純な理解しかなかった自分にとっては、新しい視点をもたらしてくれる本で参考になりました。
日本の企業コンプライアンスに対するアンチテーゼ 面白い
★★★★★
日本のコンプライアンスはアメリカの企業行動の輸入。 コンプライアンスを遵法と翻訳し、遵法は大切だ!という考え方を無批判にといいれがち。 しかし企業文化の違いがあるため日本で同じ事をやろうというのは無理があるし効果も期待できない、という考え方にまず目を見開かせられる思いでした。(アメリカでは法律の適用が現実に即して柔軟に変化(コンプライ)してゆく。日本は一度作ったら実行が難しいことでも変更しない。)。 企業コンプライアンスの仕事に関係している人にとって問題点を提起しています。
コンプライアンスの本質を説いた本
★★★★★
「失敗学」の見地からコンプライアンスの本質を検討したもの。「コンプライアンス=法令遵守」という既成の考え方では企業不祥事を防ぐことができないことを豊富な実例に基づいて論証し、「コンプライアンス=社会的要請への適応」という新しい考え方を示す。そして、企業不祥事を防止するための指標を5つ提示し、それを全て備えることが企業不祥事を防止するために必要だという自論を展開する(フルセット・コンプライアンス)。
失敗例の分析は非常に論理的で分かりやすかった。「法令遵守」の形式的実践が企業不祥事になんら役立っていないことは明快に納得できた。ただ、著者が提示する5つの指標を備えることで企業不祥事が防止されることの論理的関係に、もう少し指数を費やしてほしい気がした。
コンプライアンス担当がもう一度読んでも面白い
★★★★☆
ややもするとコンプライアンス=法令遵守という間違った概念に陥りがちなコンプライアンス業務をもう一度見直させてくれる。
コンプライアンスの2大事件といわれている三菱自工・雪印事件も、単に法令遵守だけでは説明がつかないという観点で語られているのは、プチ・パラダイムシフトになった。
失敗学(私は未読)の観点に立っているためか、全体の論調が仮説と結果、その因果関係の分析という手法で語られたおり、理路整然としてうなづけるものがる。
もう一歩踏み込んで、コンプライアンスとリスクマネージメントという観点で話を展開してくれると、より実践的なコンプライアンスが語れたのではないかと思う点が、数少ない不満。
意識改革をされました。
★★★★★
コンプライアンスという言葉の定義からその詳細迄、コンプライアンスに対して持っていたイメージを変えさせられました。例も豊富で、過去を踏まえた上でのコンプライアンスの今とこれからを捉えるのにもとても良いと思います。
分かりやすいので初心者にも、また既にコンプライアンス関連に携わる人には意識改革に良い書だと思いました。