しかし、訳者あとがきにもあるように、ホプキンズと<詩人>が互いの存在に気づきいよいよクライマックス……というところで、今までの文体にあった勢いが衰えてきています。ここでもう少し印象深い結末を用意してくれれば、文句なしだったのですが。
ですが、この作品はホプキンズと<詩人>という、いわば天才対天才の構図が中心にあるので、この二人の描写は見事でした。詩人はなんといっても冒頭のくだりが上手く、後で読み返してみると恋を失い、それを認めることが出来なかった哀しい殺人者の姿が浮かび上がってきます。
しかし、それにも増して印象的だったのは主人公のホプキンズで、彼は<ブレーン>と呼ばれるほど頭が良い刑事ですが、過去に異常な体験をすることによって現実を知り、いわゆる名探偵のように単純な正義ではありません。彼は家庭を持ちながら、たくさんの女性と関係を結び、まだ幼い娘たちに汚い現実を語って聞かせます。自分のように実例の被害を受けるまえにゆっくり教えてやろうと言うのです。自分がそれらに対する闘争家であることを知ったからだと言う、彼が印象的でした。