力強い「道程」を初刊本の形で味わえる
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【装幀カバー】…青緑を地色に、タイトル「道程 高村光太郎」の直筆金色文字があざやかである。
この詩集には、76編の詩が載せられていて、わずか9行の「道程」は終わりの方にある。書名にしなければ、注目され広く愛唱される詩にならなかっかもしれない。しかし、何度読み返しても、「独り歩きできる」のが「道程」という詩である。
本書は初刊本を底本にして、漢字は読み易い新字体に改め、「解説」「年譜」も付記されて、読者に親切に編まれている。
この詩集には「道程」の他に次のような、よく知られた詩が入っている。あらためてこれらの詩を読んでみたい。
「根付の国」…頬骨が出て、唇が厚くて、眼が三角で、…根付のような顔をして…
「ーーに」…いやなんです あなたのいつてしまふのがー 花よりさきに実のなるやうな…
「冬が来る」…冬が来る 寒い、鋭い、強い、透明な冬が来る…
「冬が来た」…きっぱりと冬が来た 八つ手の白い花も消え 公孫樹の木も箒になつた…
「冬の詩」…冬だ冬だ、何処もかも冬だ 見わたすかぎり冬だ 再び僕に会ひに来た硬骨な冬…
「秋の祈」…秋は喨々と空に鳴り 空は水色、鳥が飛び 魂いななき…
これらの詩もそれぞれに訴えるものがあるが、やはり簡潔にして力強く人口に膾炙された「道程」の詩そのものにはかなうまい。
「道程」…僕の前に道はない 僕の後ろに道は出来る ああ、自然よ 父よ 僕を一人立ちにさせた広大な父よ 僕から目を離さないで守る事をせよ 常に父の気迫を僕に充たせよ この遠い道程のため この遠い道程のため(1914年2月9日作)
この詩が作られて百年が経とうとしいるのに、永遠の詩の命を帯びて愛唱されている。人々を勇気づけている。この詩の掲載されたこの詩集を開いて他の詩とともに鑑賞してみたいものだ。