愛の夢
価格: ¥2,800
世に知られた曲であればあるだけ、演奏家はそれをどのように弾いたらいいか苦心するものだろう。だが千住真理子の場合、リスナーにそんな苦心のあとを見せることはない。迷うことなく曲の中に入り込み、ただ自分の思うままを弾いているようにしか思えない。彼女の演奏からは、おしゃれに弾こうとか、テクニックを見せつけようとか、可愛く弾こうとか、優雅に弾こうとか、そういった邪念がほとんど感じられないからだ。お高くとまることなく率直。ナマな感情をぶつける。当然、味付けは濃い。体質にもっとも合っていると思われるのが、ラフマニノフの「ヴォカリーズ」やドヴォルザークの「わが母の教えたまいし歌」のようなクラシック界のソウル・バラードだ。一方、ドルドラの「思い出」は軽めに弾かれることの多い曲だが、これもまた思い切り歌いこんでいる。前作『カンタービレ』に続き、1曲1曲、「どこまでやってくれるのか」と楽しみの絶えないアルバムだ。(松本泰樹)