1963年から1968年に至るマイルス・デイビスバンドでの活動
において、「ウォーターメロンマン」に代表されるジャズ・ロックの
流れから、モード・ジャズへと傾倒していったハービー・ハンコック。
そのマイルス・デイビスバンド加入2年目に録音された本作は、正に
1960年代、ジャズの主流となっていったモード・ジャズを代表
する作品といえるだろう。
「コード進行からの開放」をテーマにしたモード・ジャズは、奏者の
技量を最大限に生かすことが出来る場である。だが、逆に言うと
その演奏にはそれなりの力量が要求されるわけで、当時の主流の音
といえども、それに携わることの出来る人材はそう多くいなかった。
その事は本作の共演者を見てもらえば、分かっていただけると思う。
共演者はフレディー・ハバード(tp)、ジョージ・コールマン(sax)、
ロン・カーター(b)、アンソニー・ウィリアムス(ds)の4人。
ウェイン・ショーターがマイルスバンドOBのジョージ・コールマン
になった以外は、正に当時のマイルス・デイビスバンドといった面々。
メインバンドとほぼ同じメンバー、クインテットという同じ形態で
モード・ジャズが録音されているのである。そういう意味でソロ作品
というより、本業を更におしすすめるためのサイドプロジェクトと
捉えた方が本作の正しい理解といえるのかも知らない。
そのモード手法のテーマに挙げられたのが、「処女航海」。
動と静。様々な表情を表す母なる海と、それに向かう真新しい船。
自然の中に人間の作った真新しい船が浮かび、美しい風景を構築する。
この事は、自然の表す「現象」と人間の理性からくる「論理」の共演
を意味するのではないだろうか。新しい技法であるモード手法を音楽
にもたらした1960年代の新鮮な空気が伝わってくるようである。