静かに立っている樹が語るような、心に沁みいる詩集である。
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静かに立っている、しかし孤独ではない。生きることのそんな気持ちを「樹」に託した詩集。この詩集は、「思わぬがんの告知をうけた家人に付き添って、傍らに、樹のように、ただここに在るほかない、この冬からの日のかさなりのなかで編まれた。」というあとがきにある言葉を思って読むと、どの詩もひとしお深く感じられる。
立ち去らず、ただ傍らに静かに立っていること。その力は 「水平の力」という言葉を思い出させる。「死にゆく人は垂直の力の中にある。心は天に、体は重力で地に向かう。もう一人の人がそばにいると、二つの物体の間に引き合う水平の力が生まれる。垂直の力の中に水平の力が加わると、死は温かい。」(「心のくすり箱」徳永進より)。ただ生きる時でさえ、人は垂直に立つ力をいつも使っているのではないだろうか。そのとき、傍らにあるものの力は、ただあるだけで優しく、大きい。
表紙に使われているフリードリヒの「孤独な木(朝陽のあたる村」も、この本にとてもふさわしいと思われる。この木さえ、良く見れば一人の人間をもたれさせている。いや、孤独な木にさえ、寄りそっている人がいるのかもしれない。
「。」
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先日、『一字一会』という本を読みました。
各界の著名人に「いま、何か一つだけ、字を書くとしたら?」と問いかけて出来た本です。
その中で、詩人の長田弘さんは「 。 」と書きました。
「・・・語るべきことばを語り、句点(。)を打つ。ことばではないのに、ことばにかたちを与え、
意味を持たないのに、ことばに意味をもたらす、句点(。)の大切さ、またおもしろさ。」
語るべきことばを語り「。」のつけられた詩たちは、慈雨のごとく沁みて来る感じがします。
たとえば、こんなことばに。
自由とは、どこかへ立ち去ることではない。
考えぶかくここに生きることが、自由だ。
樹のように、空と土のあいだで。
(「空と土のあいだで」より)
老いるとは受け容れることである。
あたたかいものはあたたかいと言え。
空は青いと言え。
(「樹の伝記」より)
声に出して、自分自身に読んでみる。
ことばが、語りかけてくる。
沁みてくる。
効いてくる。