抑制の中の熱情
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クールでいながら熱い。田舎者でありながら洗練されている。清のゆるぎない歌唱力に立脚した安心感とともに苦悶用表情が昭和の男の色気を感じさせる。演歌が嫌いな人間にも受け容れられる魅力がある。車の中でしみじみと聞くも良し。ともに歌うのも良し。貧しくても未来があった良き時代を象徴する歌集である。さらに、クールファイブの変遷も丁寧になぞった解説書が嬉しい。
本当に良い仕事です!!
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他のレヴューにある誤りを訂正。
「鈴木啓之」さんはブラックミュージックのマエストロ「鈴木啓志さん」とは別人の、
特に「日本の」歌謡〜マニアックな音楽のマエストロで有名です。
素晴らしい執筆本も出されております。
本作品集も「ガチンコ」勝負の仕事に唸る内容!!
前川清さんは稀有なシンガーであり、スタイリストです。
ヴォーカル・インストゥルメンタルグループという事が一般的には認知されておりませんが、
「欽ちゃんショー」のレコードでは演奏もしてますので正にソウルグループですよ。
今日のイチオシは「さようならの彼方へ」だね
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クールファイブが好きだ。時々カラオケで無性にクールファイブが歌いたくなって、眉間に皴を寄せて目を細めて前川清に成りきってみたりする。
今日のイチオシは「さようならの彼方へ」だね。デビュー10周年記念盤にして初の筒美京平作品。クールファイブはこのあたりまでコンスタントにスマッシュヒットを放ってるんだけど、この曲は筒美京平によるクールファイブ解釈っていうか、まさに集大成。壺を見事に押さえ切ってるんだよね。
焦燥感を煽るようなイントロ、飛行機が離陸する効果音に被せて前川清の唸るような“クールでソウルフル”なボーカル。もうノッケからエンジン全開。曲の随所にコーラスパートもちゃんと設けられていて、クールファイブならではの楽曲になっている。恋人と別れ、ひとり国際線で飛び立つ女ってシチュエーションなんだけど、全国各地のご当地ソングを歌いつくしたクールファイブが、ついに海外に飛び立つっていうスケール感が、この楽曲にはあるね。成田開港が1978年5月20日、ってことはレコード発売の5日前、つまりこの曲は成田開港便乗盤でもあるワケ。なので同じ空港モノでもフランク永井の「羽田発7時50分」や青江三奈の「国際線待合室」よりは、明菜の「北ウイング」に近い。
この曲は筒美京平なので、垢抜けてて都会的で、クールファイブのウラハラの魅力である泥臭さはまったく感じられない。まあ、そこが惜しくもあり魅力でもあり。筒美京平が演歌歌手に提供する楽曲は五木ひろし「愛しつづけるボレロ」しかり、森進一「モロッコ」しかり、だーいすきだけど、ヒットはしないっていう。ほんとの意味で演歌になってないんだよね。
この「さようならの彼方へ」のあと位から、前川清のソロ活動が活発になっていく。1982年には一連の前川ブームから「雪列車」(作詞:糸井重里、作曲:坂本龍一)なんて曲もリリースされ、クールファイブは解散に向かうんだよなぁ。
そして神戸
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「こおおおおううべええー」曲が始まっていきなり、こう歌われます。
唐突に何の説明もなく「神戸」。そしてこう続きます「神戸、泣いてどうなるのか」。素晴らしい出だしです。不謹慎かもしれませんが、「がんばろう、神戸」の1万倍、言葉の「パワー」があります。
そしてこう続きます。「捨てられた我身がみじめになるだけ」。後半ではこんなフレーズも。「誰かうまい嘘のつける相手捜すのよ」。ズバリ「愚かな女」です。
「愚か」さから生まれる湿りきった力。「愚か」さを隠さない潔さ。
「愚か」さを正面から蔑む残酷さ。 21世紀人が忘れてしまっている、ストレートな「陰湿さ」を思い出させてくれます。
そして、前川清。湿度の高い情念のこもった声を、不器用に叫び、震わせる。過剰な情念、過剰な叫び、過剰な震え。決してテクニックで小手先に逃げない「愚か」さです。
ていねいに編まれたベスト盤
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日本のレコード会社の作る、愛のないベスト盤にウンザリしてきたが、これは例外的な傑作。シングル盤のジャケ写がカラーで紹介されており、リリース年月もきちんと記載、さらにR&B評論でも知られる鈴木啓之氏が詳細な解説を付けている。選曲も演歌色の濃い「噂の女」からソウルフルな「さようならの彼方へ」まで偏りない。小林さんの歌う「イエスタデイ・ワンス・モア」は残念ながら「おば歌謡」に収録されなかったので次回に期待したい。