著者の主張のポイントは、大体次のようになる。東アジアを巡る当時の世界情勢に二つの外交方針が存在した。一つは列強が支那を苦しめつつ相争いて自利を計る政策(旧外交と称す)、もう一つは支那の主権を尊重しつつ諸国民の経済的競争の機会を均等なるべくを謀る政策(新外交と称す)。日本は新外交を方針とし、世界の輿論を背景に日露戦争に勝利したが、満州等において更なる利権を手中にした後には、現存する新・旧外交の矛盾を解消するのではなく、政府は私曲(著者のキーワードの一つ)により旧外交へと逆行し、国民もそれを支持していると批判している。そして、このまま進めば清国を巡り米国と争いになると予言している。
普通、歴史学者は、過去の文献を歴史的な価値により評価して構成しなおし、自己の分析に役立てるというようなことをするのだと、個人的には思います。この本が異色なのは、当時の日常で目や耳にする最先端の情報を分析している点です。それが何十年もたった今では恐ろしく正確な分析であったことに驚くのです。
私が最も役に立ったのは、新聞や雑誌等の情報の確かさを見抜くやり方です。例えば、大統領はこの場面でこういう発言をしているが、実際の行動を見てみると、真意はこうこうである、というような分析です。一つ一つの事実を客観的に見つめていくとこんなにすごい分析ができるのかと、感嘆させられる本だと思います。