全10章だての本書は、買収先の特定、提案と交渉、案件の分析、報酬の決定、デュー・ディリジェンスの実行、クロージングと資金の回収までのすべての段階で役立つ効果的な戦略を示している。巻末にはチェックリストが用意され、投資家や経営者に企業買収のノウハウを教える、現場で使える「バイブル書」になっている。著者の成功談や失敗談も豊富に織り込んだ「読み物」としてもエキサイティングで、ディールにかかわるぞくぞくするような臨場感を与えてくれる。
すべてをゼロから立ち上げなければならない「ベンチャー型起業」に比べれば、買収は会社を持つための賢明な手段であることが多いが、国内ではこれまで、バイアウトに関心を寄せる層は限られていたかもしれない。「バイアウト」が金融用語としてのみならず、「自分の会社を持つ」ための、健全かつ現実的な選択肢として定着することへの期待をも担った1冊と言えよう。
企業買収にかかわる難解な用語にあふれていたであろう原書に、邦訳では見事に自然な文脈が与えられて、「一気に読み込むことができる」本になっている。しかし巻末索引などをつけて、何かの際には原語も参考にできる工夫が欲しかった。また、本書がもしも価格だけで本を選ぶ購買層を取り込めないとしたら、本来読者になるべき層にとっての相当な機会損失になるであろう点が、惜しまれるところだ。(任 彰)