MBOの知識の整理に
★★★★☆
MBOのしくみを理解するための教科書である。モデルケースの紹介と具体的事例へのあてはめがあるため、わかりやすくMBOをはじめて勉強する人にお勧めである。
一方、本書で紹介されている3つのモデルケース、1)大企業のノンコア事業・子会社の独立2)オーナー企業の事業承継3)上場企業の非公開化のうち、新聞をにぎわせかつ問題視されているのはほとんど3)であることから、実務はMBOの理念とは離れたところでブームになっているという思いを強くした。
本来MBOはマネージメントバイアウトなのだから、経営陣が株式を取得してスピンアウトするものと考えるが、実際にはPEファンド(プライベートエクイティファンド)が多額の出資を行うから経営者が大株主となることはまずない。本書は、島田晴雄氏とCVC(PEファンド)の共著であるから、MBOの影の部分についてははっきり書かれていない。また、PEファンドを使ったMBOの成功事例として新生銀行を紹介し、続いて日産の成功事例を併記している。後者がMBOでないことは明らかだが、前者もバイアウトファンドによる企業買収としか思えず、このような不正確な記述がところどころに散見される。
2005年7月にワールドの非公開化が発表され、村上ファンドやスティールの存在におびえた上場企業の経営陣が買収防衛の有効策としてMBOを研究しはじめた。2006年6月にすかいらーくが非公開化を発表してMBOブームに火がついたというのが私の見立てである。MBO後に事業改革を実行して本当に株主価値は向上するのだろうか。買収防衛を最大の理由としてMBOスキームを使った経営者の今後を見極めたい。