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大気を変える錬金術――ハーバー、ボッシュと化学の世紀

価格: ¥3,570
カテゴリ: 単行本
ブランド: みすず書房
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窒素肥料の光と陰−高圧化学の華− ★★★★☆
ハーバーとボッシュが空中窒素の固定に成功して、アンモニア合成を実用化させたことは、よく知られている。二人の業績については、高校の化学の教科書に記載されている。しかしながら、ハーバーが第一次世界大戦において毒ガス兵器の開発に狂奔したことは、それ程広く知られているわけではない。1918年にノーベル化学賞を受賞していながら、ハーバーの名前が一切言及されない化学史の成書がある。(例えば、K. Laidler, The World of Physical Chemistry, Oxord University Press, 1993)一方、ボッシュとベルギウスは高圧の化学反応装置を開発し、アンモニア合成と石炭液化による人造石油合成を実用化させた。ボッシュはバディッシュ・アニリン・ソーダ会社(BASF)において、アンモニア合成の工業化を実現させた。この業績に対して、1931年のノーベル化学賞が授与されている。ハーバーとボッシュの二人に共通する点は、単に豊かな学識をもつ人間であっただけでなく、組織を管理・運営してゆくための才能に恵まれていたところにある。この二人の化学者を見る眼差しは、その功と罪のどちらを重視するかによって違ってくる。食糧を増産するための肥料生産を工業的な規模で可能にした点は高く評価される。その一方で、人口の増加につながり、窒素肥料の大量使用により、河川・湖・海洋中の窒素分、特に硝酸塩濃度が上昇し、生態系に深刻な影響を与えている。アンモニアは肥料となるだけでなく、火薬・爆薬として使われる硝酸塩の原料にもなる。ハーバーとボッシュにより空中窒素の固定化技術が開発され、工業化されてから、おおよそ百年が経過している。この間に2回の世界大戦が勃発している。ドイツ軍が、第二次世界大戦中高圧の化学反応装置により生産された人造ガソリンを使用したことは、記憶に留めておくべきであろう。科学技術の成果が応用されたとき、そこに功と罪の両面が生じることと職業倫理について考えさせられる。
p.78-176がお勧め。2人のノーベル賞受賞者とアンモニア合成工業の物語。 ★★★★☆
みすず書房の本。厚くて活字が小さい。最初に延々とグアノの話が続いて嫌になるかもしれない。★★。

つきあいきれないと思ったが、p.78あたりの化学のチャレンジの話から(ハーバー)高圧反応チャンバー製造の克服(ボッシュ)、p.176のハーバーの毒ガスの話のところが面白い。★★★★★。ここだけ新書にしたら良いんじゃないかと思われるくらい。

高圧合成化学の夜明けと世界を席巻したBASFのアンモニア合成工場建設の物語。毒ガスの話もおまけ的ではあるが事実が並んでいて面白い。正確性はさておき日本文としては読みにくくない訳。

ナチスとユダヤ人(ハーバー)の件は時代からして逃れられないがあまり記述のまとまりが良くない。★★。技術内容に興味がある評者としてはアンモニア合成の話の次に出てくる、ボッシュが資金集めに難渋したガソリン合成の情報が読みたいのだが、これがすっぽり落ちている。★。p.275になって突然工場ができていてナチスのガソリンの四分の一を賄っていたとなり、p.276じゃ四分の三が合成で供給されているような話になっている。

写真は数葉しかないが、p.201のオッパウ工場の貯蔵製品爆発後のクレーターは一見の価値あり。数キロトンの爆発相当だろう。

ハーバーの話としてはユダヤ人であること、二度の離婚、化学界での野心と成功などの話として読める。ただそれよりも全体は技術と組織運営の双方に長けていたボッシュの物語としての方が魅力的。自邸の天文台の管理に助手を雇っていたなんて余裕のある良い話だ。日本の金持ちはまだここまで行っていないかも。
窒素から見た人類の過去、未来 ★★★★☆
ハーバー、ボッシュの空中窒素固定法は化学史で有名な技術だが、人類の食料問題と窒素肥料獲得史をチリ硝石あたりから扱った話題は大変に興味がある(やや冗長?)。
ヒットラーの台頭とその苦悩、戦後の窒素肥料による環境問題など、複雑な問題提起の書物である。
ハーバー・ボッシュの話は技術史としても大変に参考になった。
空中窒素固定技術の話題を幅広く扱った好著である。

翻訳には多少問題がある。たとえば、p.55の「チリはもう一つ、・・・・・沈んでしまったのだ。」などは一読理解は不能。
pp.70-101のハーバーの研究内容を扱った部分の技術用語の訳語に不自然なものが多く、この分野の技術者としては非常に気になった。
例えば、アンモニア破壊(分解)、リアクションチャンバー(反応器)、純化(精製)その他反応熱での原料の予熱(p.97)、熱交換(p.101)なども適切な翻訳になっていない。p.92の1800万金マルクも不明。
p.118以降のボッシュの工業化研究の段階の訳語は適切で、違和感はない。
翻訳者が違うような印象さえ受ける。

大豆の根粒バクテリアは有名だが、松なども類似の共生関係を利用したものは生育良好とのことである。
今後は問題の多い化学肥料からこのような共生技術の活用化を考える時代であろう。

いっぽう、人口減少のソフトランディングに成功しないとどうにもならないが。

表題は窒素固定技術物語の印象だが、内容は地球環境問題、食料や人口問題について幅広く考えさせられる書物である。