道に捨てられていたぼろぼろのテディ・ベアを家へつれ帰り、修理して、そのくまのお話を聞いてあげるのが、一人暮らしのおじいさんの毎日。家にはたくさんのぼろぼろのテディ・ベアがいて、みんなで物語やいろいろな思いをしんみりと語り合います……。
　ロングセラーの『アーネストおじさんシリーズ』を見てもわかるように、バンサンの絵本はむしろ大人向けに思われます。孤独と悲哀、貧しい暮らしのなかに、喜びや楽しさやユーモアが混じっていて、その反対ではない。それでもけなげに必死に生きている姿には、胸が打たれてます。
　この本には捨てられた、あるいはなくされたテディ・ベアがどっさり出てきて（数えてみたら６０体以上！）、それぞれ名前もついています。傷ついたままの自分の分身、悲しい思い出などが、ぼろぼろのテディという形で出てきているのかもしれない、とはっとさせられるときがあります。
　おじいさんの生きがいは、瀕死のテディの手当をしてから、それまでの思い出をくまたちから聞くこと。アンティークぐまの業者にはけっして売らなくても、ほしがる子どもにはただで譲る。その暮らしぶり、語られる言葉には、深い孤独が色濃く漂っていますが、それでも自分の仕事と存在に満足していることがうかがえます。まるで自分の心の傷も直してもらった気がしてしまう、とても不思議な本です。

ちょっぴり物悲しいけれど、子供の心に忘れ去られたテディベアたち。
そんな彼ら、彼女らの行き場となるところは
こんなところなんだぁってちょっと安心しちゃう。
そんな大人な優しさの絵本です。
やさしいタッチのイラストも素敵です。

「好かれて、かわいがられて、ほうりだされて、すてられる。見つけられ､ひろわれて、またかわいがられて、こんどは、なくされる。それがお前たちの一生だと？」

子供たちの友達テディベア。しかし、いつかはお払い箱になってしまう。彼らの傷ついた心と身体を癒してあげるおじいさんの目は本当の愛情に満ちている…。

絵本なのに、一冊の本を読んだような読後感だった。バンサンの優しいデッサンで描かれる、テディベアのつぶやきが切ない。大人も十分楽しめる絵本。