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西行の風景 (NHKブックス)

価格: ¥966
カテゴリ: 単行本
ブランド: 日本放送出版協会
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白黒つけないぜ! ★★★★☆
「世の無常を悟る仏者でありながら、この世の美を歌う和歌に執心していた西行」
このように自己矛盾的な、あるいは業の深い西行像を本書は打ち破ってくれる。

一言でいって、西行が目指したのは「融合」である。それは一つには「歌道」と「仏道」の融合であり、一つには「神」と「仏」の融合、つまり天台密教に基づく「本地垂迹」の思想である。

そのような西行の思想を端的に示すのが、本書でも紹介される次の歌であろう。

すが島や たうしの小石 わけかへて 黒白まぜよ 浦の濱風

黒い石ばかりの「すが島」の小石と、白い石ばかりの「たうし」島の小石を混ぜてくれ、というのである。

それは、一方が一方を取り込むのでもなく、両者が混合して別の新しい何かになるのでもない。白は白として、黒は黒として自身の本質を維持したまま、なおかつ両者が一つになるという融合の境地である。

こうした「融合」の思想の存在は、日本的な「宗教の混交」をある種の「いい加減さ」として理解することが大きな誤りであることを教えてくれる。










時空を超えた旅体験 ★★★★★
西行が見、思いを馳せたいにしえの風景が
ミレニアムの時を超えて伝わって来る。

その風景は貴族社会から武士の時代へと移る激動の時から見た
神と仏のクロスロード。

戦乱の世を起点に日本の神代、仏陀のインドの風景が、
西行の旅する風景と重なり合う。

著者が思い至った「空間の履歴」「風景の履歴」と言った考えが
西行と著者の時空を超えた知覚から肝に落ちてくるだろう。

原文と判りやすい現代語が施され、読みやすい。
著者の文章も美しい。
西行の求めた「道」 ★★★★★
 西行の求めた「道」は何であったろうか。哲学を専門とする著者は、宗教・思想の視点から西行を捉え直そうとしており,他書にはない新見が伺える。

(1)空間(虚空)に出現する風景を心に映じたまま詠うこと、これが西行の求めた「道」であったという。西行の思想を一言でいえば、「空間と言語の思想」とも言い換えている。京都、吉野、高野山、伊勢等に住み、さらに広く日本各地を旅し、漂泊する中で西行はこの国の空間を和歌という言葉に詠み続けた。

(2)歌道と仏道を統合する課題を追い求め、「和歌即真言」の思想に到達した。和歌に詠う日本語に仏教的真理を盛り込み得るとするのである。

(3)西行最晩年に、求道の集大成として、伊勢神宮に歌合を奉納している。奉納された「御裳濯河歌合」「宮河歌合」に神仏習合の思想が現れている。それは仏教を空間化する革新的な思想でもあった。
引用された歌の下に、訳も分かち書きされている。
願はくは 花のしたにて 春死なん そのきさらぎの 望月の頃
(私の望みは 咲きほこる桜の下 春に死ぬこと 二月、釈迦の   逝った あの満月の頃に)(雅)