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西行 (新潮文庫)

価格: ¥680
カテゴリ: 文庫
ブランド: 新潮社
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西行の和歌と人生への詞書 ★★★★★
 歌人として著名ながらその印象が一定しない西行の足跡を、白洲正子さんの視点でとらえようとした著作。西行自身の和歌を多く引用し、それらの和歌の詞書をも多く収録しながらも、彼女自身の文章自体が西行の和歌と人生への長大な詞書としてはたらいている。

 ちょうど「伊勢物語」を読んだばかりだからなのか、西行の境遇が在原業平のそれと重なり合う部分を多く感じる。恋愛の苦悶や知人の不遇、わが身の煩悶に思い屈して流離し、和歌を突破口にしようとした多情多感な姿が、白洲正子さんの文章からは読み取れてくる。また歴史的な興味で言えば武家が興隆し王朝が没落していく趨勢のもと、崇徳院と強く関わっていたり、同い年の平清盛や、源頼朝や源義経とも面識があったりという側面もしっかり示してくれるので、西行という歌人の多面的な姿を思い起こさせてくれる効果がある。西行のように複数の生きざまを渡り歩いた人の場合、真実の姿はどこにあるのかを一面的に決めてかかることはほぼ無意味で、どの一面で言挙げてみても嘘になってしまう。著者はそのことに気づいていて、その旨をこの著書の中で何度も言っている。人が生きていることは本来分厚いもので、西行のような詩人であればなおさらのことだ。読んでいくと、そんなことも思いついてくる。

 巻末には福田和也氏の解説もあって、その言葉は鋭利で深い。この著書をきっかけに、西行の和歌をもっと読んでみようと思わせる一冊。
桜の頃になると読みたくなる ★★★★★
 桜の頃になると、この本が読みたくなる。西行のことを中心に描いているが、和歌の話になれば、どうしても他の作り手との違いに言及せざるをえなくなるので、読者は自然と他の歌人の作品にも触れることになる。何となく霞のかかった気候にこの本を読むと、平安の昔にタイムスリップしたような感覚に襲われる。

 また、西行は通史の裏舞台にも顔を出しているので、無味乾燥な教科書の登場人物たちが西行との接触を通じて見事に生き生きとしてくる。西行が偉いのではなく、著者の描き方が秀逸だからかもしれない。
 
西行を読み解く ★★★☆☆
 1988年に出た単行本の文庫化。
 『芸術新潮』に連載されたもの。
 西行について、いろんな角度から切り込み、著者独自の見解を示してくれる。歌の解釈はどう、桜との関係は、世俗への執着はといった感じで自由に語られており、面白い。そのバッサリした物言いに、白洲正子ファンは狂喜するであろう。
 ただ、どの本もそうなのだが、白洲さん独特のフィルターがかかっているのである。本書で見えるのも、白洲正子の目を通した「西行」なのであって、それはかならずしも真実の姿ではないように思う。
 白洲正子のことは良く分かるが、西行について知りたい人には不向きな一冊と思う。
西行の人となりが、生き生きと立ち上がってくる ★★★★★
 平安時代の末に生きた西行(1118-1190)の人となりが、桜を詠んだ歌をはじめ、西行の歌を澄み切った眼差しと心で味わう著者の眼力によって、生き生きと立ち上がってくる一冊。
 思い込んだらひた向きな、ほとんど命懸けとも言いたい憧れと熱情、憑かれた心をもって、桜の花の素晴らしさを歌に詠み続けた西行。謎めいているところにもまた関心を誘われる彼の生き方、その人物像に共感し、彼の歌から目をそらさずに活写していく著者の文章。心にしみてくる、味わい深い興趣。実に魅力的でしたね。
 章のタイトルを書き抜いておきましょう。「空になる心」からはじまり、「重代の勇士」「あこぎの浦」「法金剛院にて」「嵯峨のあたり」「花の寺」「吉野山へ」「大峯修行」「熊野詣」「鴫立沢」「みちのくの旅」「江口の里」「町石道を往く」「高野往来」「讃岐の院」「讃岐の旅」「讃岐の庵室」「二見の浦にて」「富士の煙」を経て、終章の「虚空の如くなる心」へと至る、西行を訪ねる伝記・紀行文。西行の桜の名歌、絶唱の数々と相俟って、西行その人の生き生きとした人間味に触れ得た思いがしました。
 本書に紹介されていた西行の歌のなかでは、格別、次の三つの歌に心惹かれました。
  春風の花を散らすと見る夢は さめても胸のさわぐなりけり
   津の国の難波の春は夢なれや 蘆の枯葉に風渡るなり
    風になびく富士の煙(けぶり)の空に消えて ゆくへも知らぬわが思ひかな
interview with saigyou ★★★★★
白州正子が西行の足跡をたどって書いた西行論。
西行を「数奇者」としての視線から描いていて、出家人、宗教者としてはとらえていません。そもそもはじめから白州氏は「数奇者」でなければ、興味はわかず、本書の存在自体がなかったかもしれません。
かといって、「歌論」ばかりではなく、西行に歌をよませた当時の政治背景などにも、言及しておられ、総合的にすばらしく完成度のたかい西行論になっています。
また、白州氏自身の歌を感じ取る感受性と、幅広くかつ深い理解が伺え、白州氏の「数奇者」の程度も相当のものだとおもいました。
すごく勉強になりました。西行自身はもちろんのこと、和歌に興味がある方、平安時代から鎌倉にかけての歴史に興味がある方、読んでみてください。
とても読み応えがあり、白州氏に感謝したいぐらい勉強になります。
「一句ひねりたくなる」気分になってしまいました。
兎林書房 ★★★★★
歴史上の偉大な人物について自分なりのイメージを作ることは難しいものです。白州さんは学者ではありませんが、歌を読み込み、自らの西行像を作り上げています。白州さんの西行への思いが詰まった秀作です。伝記のようになっているので、西行を全く知らない人でも楽しめます。
泡沫の日々 ★★★★★
桜の季節に沢山の桜の花の歌を詠んだ西行を感じて下さい。霞がかかった幻想的な桜の木の下でこの本を開く-『ねがはくは花のしたにて春死なむそのきさらぎの望月の頃』西行の歌を軸に、漂泊の人生を辿ります。素敵な歌ばかりで、和みます。『散る花を惜しむ心やとどまりてまた来ん春のたねになるべき』
シュンちゃん堂 ★★★★☆
佐藤義清、北面の武士。~願わくば花の下にて春死なん その如月の望月のころ~西行法師の一生!
静かな本屋さん ★★★★☆
「ねがわくは花のしたにて春死なむそのきらさぎの望月の頃」
この私の好きな歌を詠んだ人について知りたくて読んだ本です。
原文をそのまま理解できる能力があればと思います。