さて、彼女のOp33-3だが、冒頭は案外速く、きつめに、そしてどことなく不安を感じさせるように演奏しているという印象を持ったのだが、後半の、後にピアノ協奏曲に使われていた部分、つまり作曲者にとって何か深い意味があったのではないかと思われる部分が実にみずみずしい!木漏れ日を受ける水面には、ゆらめきとともに、いつ、どこで現れるか分からない一瞬のきらめきがあるのだが、ちょうどそれと似た印象を持つ。これほどまでに上質に、強く訴えかける演奏は私は他に知らない。この部分に関しては、恐らく作曲者本人が、心のうちにそっとしまっておきたい思い出があって、それを託したのだろうと私は思っている。もとになった絵画を明らかにしない、そして出版を差し止めるという行為からはそんな印象を得るのだ。そして彼女は、ラフマニノフのそんな気持ちに見事に寄り添うことに成功している、そんな印象を得る演奏なのだ。