ブラームスの交響曲の寂びた深みをもっとも表現できた名演奏。
★★★★★
全曲が、スローテンポを基調として、ブラームスが楽譜に書き込んだもの全てを歌い切っているかのようだ。2番の演奏は、ロス・フィルの方が良いという世評もあるが、このVPOとの演奏は趣向が異なり、それには感じられない寂びた深みがある。これは4番についてはなおいっそう当てはまる。スローテンポであるにもかかわらず、合間から指揮者の唸りが聞えてきて、音に気迫をこめているのが伝わってくる。コーダの部分でも何とおそいんだろう。しかし、全く弛緩することはない。聴えてくる音は、己れがこの世に存在していた証を刻み込んでいるかのようで、いつくしむような音の出方といい、ひとつひとつの音にただならぬ気配がある。ブラームスがこれらの曲に込めた諦観や寂寥感というものが聴えてくる。日頃せわしく動きまくって余裕のない心を、ひととき忘れて、じっくりと鑑賞して波長を合せないとこれらの演奏は見えてこないと思われる。
そこにはただ音楽だけがあった
★★★★☆
テンポの緩急・音色の変化。
全てが耳に障ること無く淡々と心の中に納まって行く。
ブラームスが五線譜の上に置いた音符が、一つの無駄も無く目の前で音楽として組み上げられて行くよう。
曲の縦横の線が寸分も疎かにされていないため、ブラームスの音楽が持つ醍醐味を最大限味わえる。
奇をてらった装飾性は無いため、演奏の一部分だけを耳にしてもこの演奏の素晴らしさはなかなか分からないかもしれない。
しかし、一曲を心静かに聴き終えた時、紛れも無く「音楽を聴き終えた喜び」が私の全身に満ちていた。
*かなり遅いテンポで演奏されているため、横の線を一気に描ききるような演奏が好きな方にはあまり楽しめないかも。
たどりついた終着点のブラームス
★★★★★
まず、ウィーン・フィルの音色が好きな方は必聴。
マエストロ・ジュリーニは、オケとの調和をはかりつつ、
理想とするブラームスの「形」を哀愁と優しさを感じさせながら描く。
優美な旋律美をノーブルに歌う。
交響曲第1番の第2楽章がその典型だろう。
このシンフォニーは独特の「うねり」とテンポのため、
好みが分かれるかもしれない。第2番も、弦楽器群がやや難あり。惜しい。
第3番はよくまとまった、構成の見事な展開。
あの第3楽章の枯淡の境地が、艶やかな弦の絶妙のアンサンブルで、
大人の苦味、諦念、懐旧、ありし日の輝きしき思い出などを彷彿とさせる。
第4番こそが、この全集の白眉であろう。冒頭から、天より降りしきるかのような、
はかなく、甘美な音の漂いには、極上の至福を感じざるを得ない。
「ハイドン・バリエーション」も輝いている。きらめくような派手さではなく、
古い歴史を持つ教会の金の燭台のように、歳月を経た陰影を感じさせる。
誠実に磨きこんで、大切に扱ったという淡い輝きが音楽からにじみ出ている。
ウィーン・フィルの録音した同曲では、これが一番好きだ。
ジュリーニ先生最晩年の評価が分かれる3, 4番と1, 2番
★★★★☆
ジュリーニ先生最後のブラームス全集は、4, 3, 2/1番と逆順に録音されていっとる。3, 4番はいつものジュリーニ先生らしく、しなるような構築、抑制したテンポからにじみ出るスケール感、沁み入るカンタービレ、と非の打ちどころがあらへん。「ハイドンの主題による変奏曲」など、この曲の演奏史上最高の演奏ちゃいますかね。3番はフィルハーモニアとの全集以来ですし、4番もシカゴ盤以来でしたから、ホンマ、ええタイミングで録音してくださった。
4番、悲劇的序曲、3番2楽章のカンタービレを聴いとると、痩せて凛としてジュリーニ先生の指揮姿が目に浮かぶようで、当時の楽員が演奏中、感動の余り涙で楽譜が見えんようになった、という話が凡人のわてにもよう分かる。「ハイドン・・・」は、寂寥感と優しさの後ろにゴツいスケールがある。最後の第9変奏がコラール的なのが面白い。同時期のやはりウィーンでのバーンスタインが例の如くマーラー的カオス的噴出を描いて感動的なのに対し、最晩年のジュリーニ先生はもはや深い祈りの昇華の境地に達してはった、とみます。
しかしながら、シカゴでのマーラー9番、ロサンゼルスでのブラームス1, 2番、ウィーンでのブルックナー8番、アムステルダムでのドヴォルザーク7, 8番、ミュンヘン(バイエルン)でのシューベルト9番を教祖の如く愛聴して止まない大ファンとして、わては1991年の1/2番には違和感を感じますがな。プッシュするウィーンフィルが時折緊密な構成を欠いているような箇所もあり、確かに堂々として居るんですが、いつものジュリーニ先生のように知らん間に心の内側からグイグイ引き込まれていくようなとこがない気がいたします。録音当時、ご高齢にさしかかられたのも関係あるのかも(しかし、上記グレート交響曲、バイエルン放響は1993年ですが)。この1, 2番だけをお聴きになって、ジュリーニ先生を評価する方が居られないか心配。神懸かり的な構成感と悠然とした緊迫感、シャープな切れ味のある演奏を望むなら、1/2番は1980年頃のロス盤でしょうなあ
哀愁ただよう演奏
★★★★★
カラヤンのブラームスのように重厚なわけでもなく、ミュンシュのように情熱的なわけでもない。同じオケをつかっているのにクライバーの4番とジュリーニの4番はまったく違います。ジュリーニは特に晩年ですが、たっぷり時間をかけてじっくりと演奏するタイプの指揮者です。ウィーンフィルも非常に歌わせるタイプのオケでジュリーニとの相性もぴったりですので、演奏は哀愁たっぷりの胸にジーンとくるような詩情にあふれています。ブラームスにはピアノ協奏曲の1番や交響曲の1番のように重厚で、男らしい曲もあれば、晩年の室内楽のように非常に哀愁深い涙を誘う曲もあります。ブラームスに晩年の哀愁を求める人なら間違いなくはまってくれる演奏でしょう。旋律をじっくり味わいたい人にお勧めです。