キュートな一茶
★★★★★
太宰治と小林一茶は、どこか似ている。太宰びいきの私は、そう思って、この本を読み始めた。しかし、その思いは、半ば吹き飛んでしまった。
私がこの本で気に入ったのは、〈第二章 痩蛙の巻〉という章だ。たとえば、次のような句が紹介されてある。
梅の花笠にかぶつて鳴く蛙
蕗の葉を引かぶりつゝ鳴く蛙
青梅に手をかけて寝る蛙かな
山吹へ片手で下る蛙かな
星の歌よむつらつきの蛙かな
木母寺の花を敷寝の蛙かな
余計な説明、余計な理屈、そんなものは、吹き飛んでしまう。一茶の句は、キュートだ。
この章に載っている写真も好きだ。P52のアマガエル。筒の端で彼は、もしくは、彼女は、少しけだるそうだ。右手を筒の縁にかけている。これから外に出ようか、出まいか、考えあぐねているのかもしれない。P64のアマガエル。アジサイの花に半ば埋もれるような、あるいは、しがみつくような格好をしている。花の大きさに比べて、なんと、アマガエルの小さく、たよりないことか。
各章の頭に、解説が付けられている点もよい。やんちゃで繊細な人、故郷・家族に恵まれなかった人、小さい生き物に感情移入し、同化してしまえる人。〈小さいもの、弱いものの味方〉(P51)。小林一茶という人が、前よりも身近に感じることができた。