未購入の方には価値あり。他社版を持っている方には価値なし
★☆☆☆☆
田中芳樹氏が放り出した宿題の一つ、「タイタニア」の講談社文庫版第二巻。
他社版を未購入の方ならば星四つから五つ。持っている方には星一つ、どころか星ゼロでもいい本です。
今作で気になるのは、タイタニア側のキャラクターたち(ジュスラン、アリアバート、バルアミー、リディアなど)が個性豊かで魅力的、読んでいて非常に面白いのに対し、敵対するファン・ヒューリック側のキャラクターたちがあまりにも魅力に欠けることです。
「銀英伝」では、ヤン亡き後も、口ではいい加減なことを言いつつもユリアンを助け、ヤンの遺志を無駄にしまいとするキャラクターたちの姿がとても魅力的に描かれていました。ですがこの物語では、ヒューリック側は、場当たりと言うかいい加減と言うか不謹慎と言うか、とにかく誠実さに欠けます。
そこが魅力、と感じる方には何ら問題はありません。氏も前作のような重い思想戦争を描くことを嫌い、作品の差別化を図られたのでしょう。でも、私には駄目だった。
高校生の頃は、ジュスランの皮肉っぽくも真摯な政治考察や、彼とアリアバートとの複雑な友情、バルアミーとリディアのやりとりなどが楽しく、夢中になって読んだものです。今ノベルス版を読み返してみても同じ感想を持ちます。
文庫化に際し、続きが書かれる可能性はあるんでしょうかね? まあ今の氏では、書いても「蛇王再臨」のような低レベル小説になりそうな気もしますが。ああ、「隋唐演義」や「岳飛伝」の翻訳なんかどうでもいいから、あの頃この続きを書いてほしかった……。