ちなみに矢代秋雄氏は
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パリ音楽院で学び、あのメシアンにも師事したという矢代秋雄氏の名作「交響曲」には、第2楽章で大変印象的なリズムが用いられている。「テンヤ・テンヤ・テンテンヤ・テンヤ」これはパリで学んだフランス演劇の権威獅子文六の小説に出てくる神楽囃子のリズムから考案したもの。また第1楽章では氏がパリで学んでいる際に書きかけて未完となった作品の一部を用いている。つまりこの「交響曲」は日本的な素材とフランス的なものが一体となって生まれた作品である。しかし他の日本人の作品のような日本民族臭さがあまり感じられないのは、一つには矢代氏がパリで学んできたフランス的な和声やリズム感、あるいはフランス的な感性を生かして作曲されていることがある。…私の古い記憶では、矢代氏が惜しまれつつ逝去された直後、矢代氏と同時にパリに留学して学んだ経験のある故黛敏郎氏が「題名のない音楽会」で矢代氏の追悼企画を行っていた。その中で、矢代氏がフランスで直々に学んできたフランス的な「和声の進行」について、実際に演奏しながら解説していたのだ。若かりし当時の私も、なんとなくしゃれた感じの響きに感心したのを覚えている。本当に矢代氏の40代という若さでの急逝は残念なことである。
20世紀の日本の美しい作品
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指揮 湯浅卓雄 アルスター管弦楽団 ピアノ 岡田博美 録音 2000年9月(交響曲)2001年6
月(ピアノ協奏曲)北アイルランド ベルファスト アルスター・ホール
矢代秋雄のピアノ協奏曲を初めて聞いたのはもう30年くらい前になるだろうか。中村紘子の
ピアノであったと思うが印象強く残っている。それ以来矢代秋雄という名前は忘れた頃にでて
きて思いだし、またしばらく忘れまた何かの拍子にでてくる。この作曲家の作品はそうやって
日本人の記憶に残って行くのだろう。矢代秋雄は終わらない・・などとそのうち新聞に出たり
して。このCDを買ったのも先般のNHKでの「交響曲」放送を見て。有名なピアノ協奏曲も
よいけれど交響曲のほうがもっと矢代的、日本的な雰囲気がある。すばらしい作品。
日本人が書いたからと言うのでなく、ただ美しいから。日本的情緒皆無。
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~予めそう言っておかないと余計な先入観に毒されてしまう。それほどまでに純粋な、無国籍なコスモポリタン音楽。特に不安げな高音の導入句から聴き手をしっかり引きつけるピアノ協奏曲は初演者中村紘子の演奏で有名だが、ある程度距離を置いたこの演奏の方が、初めて聴く人には優しいかも(ただ、作曲者に意見してまで楽譜に手を入れることも躊躇しない中村の~~思い入れの強烈さはどこかで聴いておくべきです)。しかしそういう洗練された装いの奥に、脅迫的なオスティナート、ライト・モティーフと呼ぶにはあまりに運命的なパッセージが見え隠れするあたりは、矢代独自の語法と言って差し支えないだろう。早すぎる死が本当に惜しまれる。~
高水準の作品
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矢代秋雄は、日本の作曲家の中では、最も「民族性」を感じさせない、「近代的」で洗練されたスタイルを確立している部類の人物であろう。極めて綿密に曲がつくられており、吉田秀和がどこかで用いていた対比を用いれば、武満徹が「詩人」であるとすると、矢代秋雄は「職人」である。ここに集められた二曲は、「協奏曲」「交響曲」という伝統的なクラッシック音楽の形式と、緻密な管弦楽法を用いた、「職人的」作曲家の傑作である(といっても、この人に「傑作」以外には作品がないのだが)。しかし驚くべきなのは、そこにみずみずしい情熱や感情が豊かに盛り込まれているのである。日本の作曲家の水準は、世界的に見ても決して低くはないと思う。この二曲はそのことを実証しているが、なぜか日本人は自国の作曲家に冷ややかなのは残念である。
演奏もすばらしい。筆者はだいぶ前にN響で、ギーレンと中村紘子のコンビでピアノ協奏曲を生で聞いたことがあるが(マーラーの7番とのカップリングという興味深いプログラムだった)、その熱気あふれる演奏に鮮烈な印象を忘れてはいない。ここでの演奏は、精緻でしっかりとした構成観の中に、熱気も感じ取れる名演である。
矢代秋雄を代表する1枚。
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この寡作の作曲家の最良の、しかも最も説得力のある音楽を、よりわかりやすい演奏でまとめた1枚。どの曲も、完全主義者だったこの人のベストフォルムを伝え、どんな音楽と比べてもその絶対的価値を主張できることを証明した、記念すべき1枚でしょう。日本人演奏家のみの録音はむしろ、この録音で聴いたあとの方がより深い理解が得られるでしょう。