覇気と円熟
★★★★★
1966年頃録音のイ長調ソナタは対で書かれたイ短調と対照的な可憐で幸福な作品。若きアシュケナージも颯爽としたテンポで鮮やかに弾いています。
70年代半ば録音の17番ソナタは一筋縄では行かない長大で複雑な曲。例えば一見平凡な第一楽章の和音連打第1主題から一挙に天使的な第2主題へとワープしてしまうのだ。第2、第3楽章も充実しているが、聞き手を困惑させるのがフィナーレ。まるで幼稚園の行進のような楽節から出発して「アンバランス?」と思わせておいてどんどん変奏変容し大音楽の片鱗を見せて瞑想的に終わる。それをアシュケナージは知的に丁寧に弾いています。
フィルアップの小品は上手いの一言。
これで1200円?シューベルトファンにもアシュケナージファンにもこたえられません。
相応しい優美さを備えた演奏です
★★★★★
アシュケナージの70歳を記念して、彼の旧録音が一斉にリリースされた。どれも私がLP時代に親しんだ録音であり、CDで所有していない音源については一通り購入させてもらった。聴いてみると、懐かしさとともに、いまなお魅力いっぱいの演奏にあらためて感じ入った。
アシュケナージは、シューベルトのピアノソナタに関しては若い頃に13番、14番、17番、18番の4曲を録音していて、あとデジタル期に20番、21番の後期の2曲を録音しているが、どれもふさわしい時期に録音されたと思う。
ソナタ第13番はシューベルトらしいメロディの甘美さと、細やかな情感の漂う曲だが、アシュケナージはそれを表現する上で最良の資質を持っているピアニストであると思われる。こまやかなニュアンスもほほえましく、心温まる演奏だ。
17番は冗長な面のある曲なだけに、ある程度の勢いを持って曲の方向性をある程度リードした演奏であるが、そこでも「弾き飛ばし」にならないような配慮が張り巡らされており、安心して最後まで聴くことができる。第2楽章の移行主題の美しい膨らみが、何と言っても印象的だ。
ハンガリアン・メロディーも愛すべき小品だが、相応しい優美さを持った演奏となっている。