アシュケナージ最高のシューベルト演奏
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いわゆる「幻想ソナタ」は1970年録音。名盤の誉れ高いショパンの練習曲集と同時期の演奏。ブレンデルら「通常のテンポ」からすると異様に遅いテンポ。アシュケナージはシューベルトの和音の美しさに聞き惚れているようだ。柔らかなタッチ、芳醇な和声、第3楽章に見せる切れのいいリズム、フィナーレに見られる知的でありながらシュピーレンを忘れない自発性、音楽の沈黙に耳を傾ける姿勢など、稀代の名演奏。「耽美主義過ぎる」「客観的ではない」など批判もあろうが、この素晴らしい演奏を貶めてはなるまい。1966年頃の録音であるイ短調はより率直で簡潔。リヒテル盤のような凄みはないが好演と言えよう。ワルツ集はより素晴らしい。久しぶりの再発盤ということで、是非購入してみたい。
魔法仕掛けの魅惑のリフレイン
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アシュケナージの70歳を記念して、デッカから彼の若き日の録音がまとめてリリースされた。私にとって懐かしい録音が多く、しばらく廃盤だったものや、初CD化となる音源もあり、とてもうれしい。
このシューベルト・アルバムではソナタ第18番「幻想」がなぜか長らく廃盤で、CD化を願っていた私にも慶賀もの。この第18番という曲は、最近一気に録音数が増えて、人気も上がった感じがあります。最近では、デリカシーの極みのような演奏が多く(内田や田部の名演もここに入るでしょう・・・)、シューベルトの繊細さを表現していると思う。一方、アシュケナージの演奏を形容するなら、「チャーミング」という言葉がふさわしいのではないでしょうか?例えば幻想ソナタの終楽章を、これほどお花畑を散策するように喜びに満ちて弾いた演奏というのは、なかなかないでしょう。第1楽章の果てしない繰り返しも、やや控えた表現ながら、何度も語られるフレーズがいつのまにか「チャーム」に働きかけて、ふと新鮮な香気を吸い込んだような、はっとする魅力があります。
一方、第14番は深刻な楽想であるため、印象は異なりますが、それでも若きアシュケナージの手首の弾力の力強さを思い知るピアニズムで演奏効果は見事。終楽章のシャープな流線型の美観も鮮やかです。
またワルツ集もこよなく暖かく歌われており、とても豊かな気持ちにさせてくれる録音です。