ページをめくるたびに、まったく新鮮な素材、エピソードが次々に登場し、著者の学識の豊かさに舌を巻く。比較検討に渉猟する各国の神話伝説を列挙すると、バイキングの神話、輪の神オーディン、アーサー王伝説、ケルトとサクソンの神話、ドイツの騎士物語、ニーベルンゲンの歌、ギリシャ・ローマ神話、聖書の伝説、東洋の神話、錬金術師の輪など。
トールキンはこれらの伝説の上に立ち、1つの「指輪」を創造した。だが、これまでの「指輪伝説」がすべて魔力を求める冒険譚であるのに対し、『指輪物語』は魔力の廃棄への旅であるということに、読者は気づくことになる。このトールキンの「指輪」の魔力がもつ象徴的な意味は、読者それぞれに解釈されるだろうが、本書を読むことでその解釈はより深く、より広くなる。そしてこの『指輪物語』が1つの壮大な叙事詩としてファンタジー界に君臨することも納得できるだろう。(祐 静子)