コンパクトながらも全体像に迫る
★★★★☆
古典となると、なかなか原文で読むことがなくなり、解説書を読んでわかったような気になって満足していますが、やはり原文で読んだときの肉量感は比べようがありません。この本はメルロ=ポンティの論文をうまく選び、彼の思想の全体像が伝わるようにうまく構成されていると感じました。巻末の中山元氏の解説も、理解する上でたいへん役に立ちました。メルロ=ポンティの<肉>という概念は、「事物と生命が織りなす場」と個人的には捉えましたが、それが間違いであっても、いろいろな理解の仕方があってもいいのではとも思ってしまいます。それが古典を直に読むことの良いところかも。
この本に秘められた、もうひとつの効果。
★★★★★
当該書籍は、メルロ=ポンティの作品の中でも、重要、あるいは特徴的な著述を抜粋した書籍です。そのため、この書籍だけを読んでメルロ=ポンティを理解しようとするのは不可能です。理解のためには、どうしても前後の文脈が必要だからです。また彼は、多くの哲学者の中でも極めて把握の困難な、つまり言っていることの難しい哲学者ですので、エッセンス集など読んでもまったく理解できません。(私はかじる程度は哲学を学んだのですが、その程度の知識ではほとんど歯が立ちません。かなり時間をかけて一行一行読み進める感じです。)
でもなお、この書籍は薦められます。もうこの本を日常的に携帯するようになって数年ですが、今なお目を通すたびに新しい発見があります。メルロ=ポンティのすごいところは、極めて把握が困難で読むのにえらく苦労するのになぜか面白い点と、そして、なぜかいろいろな発想を生み出してくれることです(これがこの書籍の本当の価値なのではないかと考えているのですが)。そうなんです、彼の著述を読んでいると、なぜか新しいアイデアに出会うんです。
説明になっていなくてごめんなさい。でも、仕事などで行き詰って、どうしても新しいアイデアが必要なときに、なぜか開いてしまう本なんです。
そして、そういった効果からこの本を再読してみると、人のインスピレーションを刺激する刺激的な部分が抜粋されていることがわかり、ひょっとしてそういう効果を狙って編集されているのでは?と、勘ぐりたくなるくらいです。そう、メルロ=ポンティの哲学を研究するなら、そもそもこんな抜粋集ではなく、「知覚の現象学」や、「見えるものとみえないもの」など、ちゃんと翻訳まで出ているのですから、それを買い求めればよいのです。とすれば、この「コレクション」の価値は、彼の思想を把握するためというより、インスピレーションの源となりうる彼の著述を、日常的に携帯できるサイズにまとめた点にあるのではないでしょうか。
この本でメルロ=ポンティに興味を持ってもらうこともできると思います。決して順序だてて理路整然と世界を説明してゆくタイプの哲学者ではありません。ゆっくりゆっくりと、言葉に惑わされず、さりとて言葉の力を無視するのでもなく、じっくりと著述していくスタイルをとることが多いようです。それだけに一読で理解できるものではありませんが。ただその分、大変魅力的な語りをする哲学者ですので、その点でもお勧めできます。哲学なんててんで読んだことがない人がいきなりこの本を手にとっても、なぜかその魅力に惹かれてしまうかもしれない、その位の力は十分にあります。(ただし、もちろん古代から現代に至る大体の哲学史と、その主要な思想のエッセンスと用語くらいは把握しておかないと、何を言っているのか想像すらもできませんが)
ただし、決してこの本一冊では、メルロ=ポンティの哲学は理解できません。そこはくれぐれもご理解のうえで、ご購入されることをお勧めします。
身体、そして言葉
★★★☆☆
メルロ=ポンティの論文集である。しかし、彼の著書から文章を部分的に抜き取ってきて編集してあるために、この本だけでは十分な理解ができないように思う。かなり広い範囲にわたって論文を入れている点は評価できるが、解説してくれる知人などが周りにいないのであれば、結局もう一度本一冊を読み直したくなってしまうのではないか。とはいえ、彼の重要な論点はおさえられるように工夫してあるし、エッセンスはつかめると思う。しかし、前後の文脈がないために、初めて読むものにとって理解することはそう容易でないように思える。一緒に輪読したり、授業で使用するなどする際には適しているかもしれない。