舶来品でたどる栄枯盛衰
★★★★☆
この表題から期待されるものは、一つの歴史時代の作品として源氏物語が「東アジア世界」をどのように反映しているかということである。本書が幼少の光源氏と高麗人の観相人との出会いに始まることはそのような期待を高めてくれる。当時の日本の宮廷、貴族社会が中国の詩文を愛好し仏教的世界観の影響下にあったことは広く知られている。しかしそれ以外にどのような国際的な(中国に限らず東アジアからの)文化の影をこの作品の中に認めることができるだろうか。残念ながら、「東アジア世界」という表題への期待は次第に後退して行く。
本書で「東アジア世界」によって表現されるものはもろもろの舶来の財物である。それは毛皮、香料、あるいは工芸品などであり、それを所有する者の富と権威を表徴する。著者は作品の中からそれらの品々を丹念に拾い出して立証につとめる。そのことが興味を引かないというのではないが、それが「東アジア世界」であるというのは行き過ぎている。
著者の主張したいことは「国風文化」なるいわば国粋的な狭い文学史観の中に源氏物語の達成を取り込もうとする傾向を打破して、それをより広い東アジアとの交流の中に位置づけることであろう。その狙いは良いとしても表題の意図するところはやはり本文の文意と文脈の中にこそ求めるべきではないだろうか。