最近みつかった大木実あて書簡などにも触れ、昨２００９年に
完結した『新校本宮澤賢治全集』の成果をふまえている。一方
で、戦前の証言にまで遡り、数多く初期形を採用・紹介してい
る。賢治肯定派と否定派（吉田司など）の論点も適宜紹介され
、研究書とノンフィクションの両面をうまくおさえている。寄
り道も多い本だが、さほど気にはならない。「賢治病」ともい
える賢治ブームの様相を追った第二章が割合読ませる。近年の
賢治本のなかでは出色の内容の濃さだと思う。澤田キヌに関し
ては証言をつなぎ合わせる内容だった。雑誌で読んだときより
証言内容は幅広く、賢治が行った糞尿ストライキの話などもお
もしろかった。新たな客観的資料（当時の手紙など）が紹介さ
れていればなおよかったが、著者も書いているとおり、それは
もはや望みがたいようだ。三島由紀夫や村上兵衛に関する著者
の個人的な記憶が書かれていることも目をひいた。

宮沢賢治というと『春と修羅』だが、「冬のスケッチ」という
先駆的な作品があって、賢治は恋を告白しているということを
本書ではじめて知った。有名な作品も次々と出てくる。謎解き
でつなげた作品で、まるでミステリー小説のようだった。

「雨ニモマケズ」手帳や他の作品に登場する隠された「恋人」
について、新しい視点から論考を行った長編。国文学者や詩人
が書いた専門的なものではなく、一般読者を意識した書き方が
良い。長いにもかかわらず一気に読破できた。
　文芸評論というより、宮澤賢治にかかわる新しい事実を発掘
したノンフィクションだろう。これまで研究者の間で交わされ
た仮説・論争などを、コンパクトに総ざらえしている点も、特
徴だといえる。
　また、本書で目をひいたのは、従軍看護婦のくだりを記した
終わりの２章。野戦病院での彼女たちの日常がなんとも感動的
だ。が、ここをもう少し読みたかったので、減点して星４つ。

最近みつかった大木実あて書簡などにも触れ、昨２００９年に
完結した『新校本宮澤賢治全集』の成果をふまえている。一方
で、戦前の証言にまで遡り、数多く初期形を採用・紹介してい
る。賢治肯定派と否定派（吉田司など）の論点も適宜紹介され
、研究書とノンフィクションの両面をうまくおさえている。寄
り道も多い本だが、さほど気にはならない。「賢治病」ともい
える賢治ブームの様相を追った第二章が割合読ませる。近年の
賢治本のなかでは出色の内容の濃さだと思う。澤田キヌに関し
ては証言をつなぎ合わせる内容だった。雑誌で読んだときより
証言内容は幅広く、賢治が行った糞尿ストライキの話などもお
もしろかった。新たな客観的資料（当時の手紙など）が紹介さ
れていればなおよかったが、著者も書いているとおり、それは
もはや望みがたいようだ。三島由紀夫や村上兵衛に関する著者
の個人的な記憶が書かれていることも目をひいた。

宮沢賢治というと『春と修羅』だが、「冬のスケッチ」という
先駆的な作品があって、賢治は恋を告白しているということを
本書ではじめて知った。有名な作品も次々と出てくる。謎解き
でつなげた作品で、まるでミステリー小説のようだった。

「雨ニモマケズ」手帳や他の作品に登場する隠された「恋人」
について、新しい視点から論考を行った長編。国文学者や詩人
が書いた専門的なものではなく、一般読者を意識した書き方が
良い。長いにもかかわらず一気に読破できた。
　文芸評論というより、宮澤賢治にかかわる新しい事実を発掘
したノンフィクションだろう。これまで研究者の間で交わされ
た仮説・論争などを、コンパクトに総ざらえしている点も、特
徴だといえる。
　また、本書で目をひいたのは、従軍看護婦のくだりを記した
終わりの２章。野戦病院での彼女たちの日常がなんとも感動的
だ。が、ここをもう少し読みたかったので、減点して星４つ。