賢治・感覚を越境する者
★★★★★
宮沢賢治。
天馬と呼ばれた作家の作品には、読者の五感に訴えかけてくるものがある。
作家自身の鋭敏な感覚が、作品そのものにも宿っているような印象を受ける。無論、ただ宿っているだけではない。作品自体が、賢治に匹敵し、それを凌駕するような五感を身に着けてさえいる。本書では、賢治自身と賢治作品の五感の部分に焦点を当て、作品を通じて作家が一体なにを捉えようとしたのかについて追求する。皮膚感覚がもたらす痛みに過剰な興味を示し、人目も憚らず自然と戯れたという賢治が、その五感を総じて味わおうとしたものとはなんであったのか。
そのことについて、本書の中で著者は、あるひとつの仮説を打ち立てることに成功している。この部分を更に掘り下げた筆者の次なる研究が待ち遠しい。