真面目な評論
★★★★☆
宮沢章夫と言えば笑える文章を期待する人が多いと思いますが、これはかなり真面目な評論集です。演劇全体について書いたり、劇団一つ一つに対して書いたりしていますが、どれも真正面からの評論であり、意見表明です。
また、文章が珍しく過激に攻撃的になる箇所があるのも特徴です。宮沢氏はいつも、のらりくらりとさりげなく疑問を投げかけてくるような書き方をしているように見受けられますが、この本では珍しく分かりやすい攻撃の形を取っています。実にストレートに「笑いとは何か」「演劇はどこへ向かうべきか」等、真面目に語っています。『チェーホフの戦争』と同じ種類のもので、ここにはいつもの「脱力系」と称される笑いはごくわずかしかありません。
ですが、宮沢氏独特の視点は健在です。「笑える」面白さはないものの、「興味が湧く」面白さに満ち溢れています。私は80〜90年代の演劇のことは全く知りませんでしたが、何が宮沢氏をそこまで怒らせたのか、何が宮沢氏をしてそこまで絶賛させたのか、当時の演劇界のことを知りたくなるくらいに興味をかきたててくれました。当時の状況を知っている方が読めば、また違った面白さがあるのでしょう。エッセイのファンの方も、劇作家としての宮沢氏の一面を覗いてみてはいかがでしょうか。